ただ想い出を言葉にして

 赤・白・黄と順番にケーブルをテレビ端子に挿していく。

 電源アダプターも設置し、プレイステーション本体と繋ぐ。

 これで準備完了だ。

 この作業だけで、すでに懐かしい記憶が刺激される。


 本体と一緒に持ってきていた分厚いケースを開き、『FF7』のソフトを取り出す。


 当時は“カセット”から“ディスク”に変わったというだけで未来を感じていた。

 黒光りするディスクの裏面を眺めて、不思議な高揚感に包まれていたことを思い出す。

 これから冒険する世界のデータが、こんな薄い円盤のなかに詰まっている。そのことを、いつも不思議に感じていた。


「とりあえずDISC1を入れてみるかな」


 源先生から受け取ったメモリーカード。そのなかのセーブデータは、響子が遊んでいたものだろうけれど、きっと昔の僕のデータもそのまま残しているはず。

 中身を確認したくなって、響子のプレイステーションを勝手に使わせてもらった。


 本体上面の右側にある“OPEN”ボタンを押し、中央部分のフタを開ける。

 そこには別のディスクが入っていた。

 響子が直前まで遊んでいたゲームなのかと一瞬思ったが、すぐに違うことに気付いた。

 ディスクの表面には何も書かれていない。


「なんだ……これ?」


 ディスクを取り出して眺めながら、独り言をこぼす。

 表面は何もプリントされていない白一色で、裏返してみても普通のCDと同じくキラキラと光るばかり。

 特に、なんの変哲もない――。


「いや、違う。これプレステのソフトじゃないな」


 プレイステーションのディスクは裏面が黒い。

 これはただのCD‐Romロムだ。

 でも、なんでここに入れている?

 隠していた?


 考えても、理由なんてわからない。

 中を確認させてもらおう。

 響子が記憶をなくした原因を探るヒントになるかもしれない。

 でも、もしプライバシーに関わるようなものだったなら、いつか謝ろう。


 そんなことを考えながら、自分のパソコンにCD‐Romを挿入する。

 アイコンをクリックしてフォルダを開くと、テキストデータがいくつも入っていた。

 ファイル名には、僕のよく知っている作品の名前が並んでいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ドラゴンクエストⅣ.doc

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887304485/episodes/1177354054888163467


ファイナルファンタジーⅣ.doc

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887304485/episodes/1177354054888233039


ドラゴンクエストⅤ.doc

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887304485/episodes/1177354054888305439


ファイナルファンタジーⅤ.doc

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887304485/episodes/1177354054888562232


聖剣伝説2.doc

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887304485/episodes/1177354054888695522


ロマンシング サ・ガ2.doc

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887304485/episodes/1177354054888803473


クロノ・トリガー.doc

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887304485/episodes/1177354054889099672


ドラゴンクエストⅢ(リメイク).doc https://kakuyomu.jp/works/1177354054887304485/episodes/1177354054889223472


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 それは日記と呼ぶには限定的で、批評と呼ぶには個人的で。

 まるで、ただ想い出を言葉にしたものだった。


「……ほんと、どんだけゲーム好きなんだよ」


 僕はつい、少しだけ吹き出してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る