強い思いが記憶を呼び起こす

 頑張って記憶を戻そう。未来のために。

 そう意気込んだのはいいけれど、私にやれることは結局ゲームくらいしかなかった。

 錦くんに昔の話をいろいろ聞いても、連想して思い出せるのはゲーム関連のことばかり。

 源先生が言うには、楽しかったことや印象深かったものの方が、思い出しやすいらしい。だから今まで通り、ゲームを進めることが、記憶を戻す近道だということ。

 そんな大義名分を得た私は、ときどき錦くんのアドバイスをもらいながら、『クロノ・トリガー』を進めていた。


 いろんな時代を駆け巡り、多くの仲間も加わり、物語は終盤にさしかかる。

 そんななか、とあるイベントでこんなセリフがあった。


「きっと『あの時にもどりたい』『あの時ああしていれば』……というつよい思いが記憶を呼び起こすのでショウ。」


 久しぶりに再会したロボットロボが、仲間と一緒にたき火を囲んで語り合うシーン。

 まるで私に向けて言っているような気がした。


 錦くんとは、高校生のころからずっと離れ離れになっていたと聞いた。

 どうして大人になって会いにいかなかったのか、その理由はわからないけれど、きっと私はずっと願っていたんだろう。

 錦くんと一緒にゲームをした、あの夏休みに戻りたい、と。


 だけど、私はもう十分に遊んだと思う。

 いつまでも錦くんに頼ってばかりでいるわけにもいかない。

 早く記憶を戻そう。

 そして、鷲尾さんにはちゃんと謝って、別れてもらおう。


 大人未来の私は鷲尾さんと付き合っている。

 その事実を聞いた数日後、鷲尾さんが一人で私を訪ねてくれた。

 あのとき――。


「先日は驚かせてしまって申し訳ありません」


「あ……いえ……」


「急にあんなことを聞かされても困りますよね。部下には注意しておきましたので、お許しください」


「……まあ……そう、ですね。びっくり……しました」


「戸惑われるのも無理はないと思います。今の牧野さんは水無瀬さんに好意を寄せてらっしゃるんでしょう?」


「は、え、なんで!?」


「見ていれば、わかりますよ」


「あ、いや、そんな……」


「大丈夫ですよ。それに、いまの牧野さんとしては複雑でしょう。ですから、私のことは気になさらなくて大丈夫ですから」


「え?」


「記憶が戻られた際、もし今の気持ちがそのまま残っているようでしたら、正直におっしゃってください」


「……はい」


「水無瀬さんにも同じようにお話ししておきますから、私のことついて懸念する必要はありませんよ」


「ありがとう……ございます」


 ――鷲尾さんとちゃんと会話をするのは初めてだったけれど(もちろん記憶を失う以前は置いといて)、わざわざ謝りに来てくれて、さらには私が錦くんのことを好きなことまで気付いた上で、気にしなくていいとまで言ってくれた。

 あんな良い人、みたことない。


 おかげでなんの憂いもなく、記憶を戻そうと思える。


 記憶が戻ったら……鷲尾さんにはちゃんと話そう。

 私はやっぱり錦くんが好きなんだと。


 そして、錦くんに、告白するんだ。

 いま子供の私の気持ちはもう知られちゃってるけれど、未来大人の私の気持ちをちゃんと伝えよう。


「よっし、今日こそラヴォス倒そう!」


 昨日もラスボスに挑んだけれど、やられてしまった。

 最終形態までは行けたはずなのに、何度倒しても復活してきて、こちらのMPが尽きてしまった。

 錦くんに相談したところ「見た目に騙されたらいけない」とアドバイスをくれた。

 いまいち意味はわからないけれど、とにかく再挑戦だ。


 意気込んでカセットを付ける。


「あれ? なんだろ、これ?」


 机の下に写真が一枚落ちている。

 いつからあったんだろう。全然気づかなかった。


 なにげなく拾いあげて見てみる。

 知らない人が写って――。


・・・・ ・ ・・・・・・………─────────────………・・・・・・ ・ ・・・・


「あれ?」


 つくえの上には見たことのないキカイがおかれていて、テレビとつながっている。

 こういうの、どこかで見たことがある。

 ああ、そうだ。たしか“ファミコン”っていうんだっけ。

 でも、こんな色だったっけ?


 テレビは緑いろのバックに、うちゅう人みたいな人がうつっている。

 ラヴォスコアって書かれているのが、この人の名前?


「へんなゲーム」


 そういえば、わたしは何をしてたんだっけ。

 それに、ここはどこだろう。

 なんだか頭がぼーっとする。


 しばらくぼんやりしていたら、急に男の人が入ってきた。

 この人はだれだっけ? 

 ええと、知ってる人だ。ああ、そうだ。


「みなせさん?」


 そうだった。ここは病院で。

 この人が、いろいろ教えてくれた。

 いろいろ?

 いろいろって、なんだっけ。


 みなせさんが、なにか言っているけれど、よくわからない。

 ただ、すごく悲しそうな顔をしているのだけはわかった。

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