🎮ファイナルファンタジーⅦ〔Disc1〕

だから今も、あの続きを僕は知らない

 これはきっと、罰なのだろう。


 あの頃みたいに一緒にゲームをできるのなら、ずっとこのまま過ごすのも悪くないんじゃないか。

 もし記憶が戻らなかったとしても、それでも仕方ないんじゃないか。


 心のどこかで、そんなことを思ってしまっていた自分に対しての罰。


 ――響子に、久しぶりって挨拶をしたい。大切なゲーム仲間に、もう一度ちゃんと会いたい。そう思うから、です。


 以前、鷲尾さんにそんな偉そうなことを言った。

 あのときは本心のつもりだった。

 でも、響子が水無瀬さん錦くんだと認識してくれて、それだけでもう満足していた。


 ……いや、違う。

 本当は、怖かったんだ。

 記憶が戻ったら、今までのようにはいられない。

 鷲尾さんは僕のことを“恋敵ライバル”だなんて言ってくれたけれど、いざ勝負をすることを考えると、怖くて仕方がなかった。


 どちらにしても、結果は同じだ。僕は響子から拒絶されてしまった。

 きっと何か致命的な失敗をしたんだろう。残念ながらコンティニューは無い。


 今日は久しぶりに何の予定も入っていない休日だ。

 けれど、何もする気が起きない。

 積みゲーはたくさんあるのに、テレビをつける気力すら湧かない。


 人生はゲームと同じ、暇つぶし。

 その信条は改めなければならない。

 その暇つぶしですら、今はもうできないのだから。

 今の僕にできるのは、時間が過ぎるのをじっと耐えるように待つことだけ。

 まだ仕事でもしていた方がよっぽど気が紛れる。


 部屋の片隅で紙袋に入ったままのプレイステーションが目についた。

 響子のプレイステーションと『FF7』を、そのまま持って帰ってきてしまった。

 

 『ファイナルファンタジーⅦ』。

 僕たちが最後に遊んだゲーム。

 あの『ファイナルファンタジー』シリーズの7作目が、プレイステーションという全く新しい機体で発売されると知った日、中学生の僕は興奮で眠れなかった。

 数ヶ月分のお小遣いとお年玉を使い、本体プレイステーションだけを先に買い、ソフトの発売日をずっと待っていた。


 コンビニでもゲームが取り扱われるようになり、発売日には学校が始まる前に予約していたコンビニに駆け込んだ。雪が降りそうなくらい、寒い日だった。

 その日の授業は上の空で、休み時間には友人と一緒に説明書を読み耽っていた。

 登場人物の説明が書かれているページには、金髪でツンツン頭の主人公クラウドや、そのほかの仲間たちのCGイラストが描かれていて、授業中もずっとそのページをこっそりと眺めていた。


 学校から急いで帰ると、僕より一年早く高校生になっていた響子が、なぜか既に僕の部屋で待っていた。僕よりも楽しみにしていたのかもしれない。

 初めての3Dに慣れるまでは少し時間がかかったけれど、立体的なマップや戦闘は衝撃的で、僕も響子も夢中になっていた。

 キャラクターの名前は自由に変更できたので、主人公クラウドは“ニシキ”に、そしてヒロインエアリスには“キョウコ”と名前を付けた。

 『ドラクエ』と違い、『FF』はキャラに性格がありしっかりと喋るので、かなり恥ずかしい気はしたけれど、それすらも笑いながら一緒に遊んでいた。

 僕はしばらく「興味ないね」という主人公クラウドの口癖を真似してしまうくらい、その世界に浸っていた。


 『FF7』は三枚組で、ストーリーが進めばディスクを入れ替える、という初めての形式だった。

 そろそろ次のディスクになるんだろうか、とそわそわしながらゲームを進めていたとき、その日が訪れた。


 ヒロインエアリスとの別れの場面。

 それが一枚目のラストだった。


 そして、僕の『FF7』はそこで止まった。

 セーブデータを保存していたメモリーカードは響子と一緒に消えてしまい、かといって最初から一人でプレイする気にはならなかった。


 だから今も、あの続きを僕は知らない。

 大好きなヒロインエアリスがいなくなり、あのあと主人公クラウドがどうやって旅を続けられたのか、わからない。


「君はもう、クラウドになったかい?」

 当時、テレビCMで使われていたキャッチフレーズ。

 あのときの僕は、間違いなくクラウドになっていた。もう旅ができなくなるほどに。


 それと比べたら、ずっとましだ。響子がちゃんと無事でいることがわかっている。

 そして、彼女はきっとこれからは幸せに生きていく。

 そう、それだけで十分なんだと、自分に言い聞かせるように。

 僕は眠くもないのに布団に潜り込んだ。

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