【2Player 】
🎮聖剣伝説2
大人になり、もう一度プレイしたときに
そういえば『聖剣2』は二人プレイができるんだってさ。
ほんと! じゃあ一緒にやろやろ! 錦くんは
だって、攻撃魔法ガンガン使う方が楽しそうだもん。
そっか。んじゃ、2Pコントローラーのスタートボタンを押して――。
「……んあー、よく寝たあ」
差し込む朝日が私を眠りから呼び覚ます。
目覚まし時計が鳴る前に起きられるなんて。もう中学生だし、私も成長したということかな。
毎朝、起きるたびに戸惑っていたこの病室の風景にも、少しは慣れてきた。
看護師さんが朝ごはんを持ってきてくれるまでは、まだ時間がある。
とりあえず今日の分の宿題に手をつけておこう。
とっとと宿題なんて終わらせて、昨日の続きをやらなくちゃ。
机の上のスーパーファミコンに挿さったままの『聖剣伝説2』が私を急かす。
あれ? そういえば、なんか夢を見てたような。
妙に懐かしい気分がする。どんな夢だったっけ。
ああ、たぶんこれ思い出せないやつだ、と諦めかけていたとき、扉がノックされる。
「おはよう。もう宿題してるんだね。偉いねえ」
「源先生! おはようございます!」
源先生が白髪頭を後ろに撫で付けながら入ってくる。
「夏休みの宿題はどう? 難しい?」
「んー、思ったより簡単かも」
私こんなに勉強できたっけ、って自分でも戸惑うくらい、すらすらと解ける。
これなら今日の宿題もすぐ終えられる。
「それならよかった。もしわからないことがあったら、水無瀬さんに聞くといい。たぶん昼頃には来るから」
「ほんとに! やった!」
ちょうど『聖剣2』で倒せないボスがいるから、攻略法を聞きたかったところだ。グッドタイミング。
なんだかよくわからない病気で入院してから一ヶ月近く。錦くんは一度もお見舞いに来てくれないけれど、その代わり水無瀬さんがよく来てくれる。
私が退屈しないようにゲームソフトを持ってきてくれたのは、本当にありがたい。病院の外には出られないし、ずっと部屋で宿題ばっかりしてたら、それこそおかしくなっちゃう。
ただ、ときどきちょっと不思議に思うこともある。
水無瀬さんと話していると、錦くんの部屋で一緒にゲームしていたときみたいに感じることがある。歳は全然違うのに、それでも従兄弟だと似るものなんだろうか。
なんだか、手の届かないところがむずがゆいような、そんな気持ち。全然イヤじゃないんだけれど、最近はちょっと落ち着かなくて、少し困る。
・・・・ ・ ・・・・・・………─────────────………・・・・・・ ・ ・・・・
「あれ? 部屋から出られない? なんで? ボス倒したよね?」
「あー、しまった。そういやこんなバグあったな……」
水無瀬さんのアドバイスをもらって、やっと“ぱっくんトカゲ”を倒せたのに、なんだか画面がおかしい。キャラクターは動かせるけれど、ボスと戦った部屋から出られない。音楽も止まっている。
「バグっちゃったの?」
「うん……。僕もすっかり忘れてた。ボスを倒したあとセレクトボタンを押すと、高確率でバグるみたい」
あれ?
そういえば、前に錦くんからも同じことを聞いたような……。
私、このバグのこと、知ってたような……。
「残念だけど、こうなったらリセットするしかない」
「ん、ああ、そっか。やり直しかー」
でも、水無瀬さんに教えてもらった通り、ムチを使ったらすごく楽に倒せた。
仕方ないので、気を取り直して思い切りリセットボタンを押す。
画面が暗転し、“SQUARE SOFT”という小さなロゴが奇妙な音とともに画面に出てくる。いつものオープニングだ。
ピアノのメロディが流れ、大きく『聖剣伝説2』の文字が映される。画面下部には“©SQUARE1993“と表示されている。
そのあと、暗幕が上下に開くように黒い背景が切り替わる。とても大きな樹を目の前に立つ3人の仲間。綺麗なメロディに合わせて、たくさんの赤いフラミンゴが飛び立つ。
何度も見てるはずなのに、つい飛ばさずに見てしまう。
水無瀬さんも、何も言わずに画面に見入っている。
「あ、そういえば、オープニングの最初、変な鳴き声みたいなのがするでしょ。これ、なんなんだろ?」
「ああ、あれか。オオォォン、ってやつ?」
「あはは! 似てる似てる! それそれ」
水無瀬さんの声真似が思いのほか似ていて、つい噴き出してしまった。
「あれはね、実はクジラの鳴き声らしいよ。本物のクジラの声を録音したやつ」
「え? なんで?」
思いもかけない返答に戸惑う。そもそもゲームにクジラなんて出てきたっけ?
「製作者のインタビューによるとね、ゲームの世界にもいろんな生き物がいるから、それを表現したかったんだって」
へえ。さすが水無瀬さん、よく知ってるなあ。
「でも……言われてみたら、しっくりくるかも」
他のRPGと同じように、この『聖剣伝説2』にも敵モンスターはたくさんいるけれど、どのモンスターも妙に愛着があるというか、馴染んでいるというか。
そう。怖いモンスターっていうより、その世界の生き物って感じがする。
このゲームを遊ぶとき、いつも感じていた独特の世界観。うまく言えないけれど、それがクジラの鳴き声にも表現されているのかもしれない。
「この『聖剣2』の音楽にはね、こういう仕掛けがたくさんあってね」
水無瀬さんが得意そうに言う。
「たとえば、オープニング曲のタイトル名は“天使の
「え? なんで? 全然イメージと違う」
すごく綺麗なメロディなのに、タイトルといまいち結びつかない。
「ね。なんでだろって思うでしょ。作曲者が言うには、大人になってもう一回プレイしたとき、元ネタを調べたくなるように作ったんだって。そうやって世界を広げてもらいたいって」
「へえー。でもさ……大人になって、また同じゲームやるかなあ?」
私が大人になったら……十年後とか二十年後? そのとき同じゲームをまたやるとは思えない。
「大丈夫。してるよ」
水無瀬さんが即答して、私を見ながら微笑む。
よくわからないけれど、そういうものなのかな。
「じゃ、僕はそろそろ行くね」
「え? もう?」
「うん、このあと用事があって」
あれ? なんだか珍しい。
「そっか。じゃあ、またね。教えてくれてありがと! 頑張っていろんな武器使ってみる」
ここのボスの“ぱっくんトカゲ”に苦戦していたのは、私が好きな武器しか使っていなかったから。
このゲームには、剣・斧・ヤリ・ムチ・弓矢・ブーメラン・スピア・グローブと、8種類もの武器がある。好きじゃない武器(だってさ、ムチとか斧とか、カッコよくないし)でも敵に合わせて使わなきゃダメなんだ。
「うん。僕も、いろんな武器を使うことにしたから……。それじゃ」
そんなことを言って、勢いよく水無瀬さんは部屋を出ていった。いつもの自信なさげな雰囲気が、今日の水無瀬さんからはあまり感じられなかった。
それとは反対に、私の心の奥の妙なむずがゆさが、ほんの少し強くなっているような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます