第23話 報告と審議 (2)

ケン「ティナ、この地図・・・バードビューでも見ることできるか?」

ティナ「できるよ。なんなら使って、これ。」

自分のスマホをケンに預けるティナ。

3人はそれぞれの持ち場に就いた。 ティナとミナコは靴を脱ぎ、犬小屋型PC端末に向かい合って座り、待機。

ケンは操縦席に腰を降ろし、PCを起動させた。 前方に、だだっ広い塩湖の風景。

ティナから借りたスマホの地図情報図と、前方に見える景色とを照らし合わせる。

電波が遮断されているため、低い山が連なる、その形を見極めなければならない。

操縦席の手前にあるパネルにある“設定速度”の、最も遅い時速4kmの表示に触れ、

さらに進行方向を示す矢印に触れたまま角度を変えると、矢印も追随し、車体は

その通り進行する。そして、パネルから手を離すと停止。

そんな面倒くさい微調整を繰り返す作業の末、どうにかそれらしいポイントを見当付ける事はできた。

ティナのスマホに表示されているポイントには『レストラン(?)』とある。

(とにかく、今の俺たちに必要なのは、食事と休息だ。)

そう思っているケンだったが、この乗り物に対する信頼性は今の所、まだ無い。

当面の目的地半ばで停止、走行不能という危険性も充分に考えられる。

逆に、有効な戦力と成り得る可能性は・・・ 今の状況では想像し辛い。

ケン「どうか・・・持ちこたえてくれよ・・・。」

いつの間にか・・・   “設定速度” の欄に、それまで時速15kmが上限だったのが、新たに30kmまでの表示が手前のパネルに書き加えられていた。

初めから訳の分からない、この戦車のような乗り物にいちいち不思議がっても仕方が無い。 ケンは躊躇する事無く、30kmの欄に手を添えた。

ケン「ティナ!上空と右側の監視を! 須田さんは後方と左側の監視、宜しく!」 ティナ、ミナコ『了解!!』

同時に、ホームAI が仕事をしたような感じで犬小屋型PCの画面が切り替わった。ケン「発進!」 パネルに表示されている矢印に手が添えられた。

部屋中に細かい振動が響き渡る。エンジンのような動力音は一切聞こえてこない。

ミナコ「うわあ・・・ ホントに走ってる・・・」

後方監視の映像は、砂埃(=塩の粉)を吹き飛ばしているように見える、等間隔に切れ目が入った、幅が広めなスケボーのそれによく似た形のホイール。

左右側面の映像は、白い塩の地面が流れていくように見える。

しばらくすると、それらしい寂れた感じのレストランっぽい建物が見えてきた。  { FLAT TRACK CAFE }が、どうやら店名らしい。

駐車スペース(?)には一台のピックアップトラックが止まっていた。

ケンは、そこに駐車できるかどうか確認してみた。

乗用車、ゆうに6台分のスペースを占拠してしまいそうだが、他に車は無い。

ひとまず、戦車を駐車させ、3人は店の前に立った。

すると、ケンのスマホにメールの着信音。

ケン(ようやく来たか。) ただ、文の中身は・・・


返信不要。(タイトル)


『 場所は特定した。 今から約3時間後にそちらへ到着の予定。

 それまで待機。 くれぐれも、事前の報告無しに勝手な移動は

 しない事。


 ps.審議の決定は、まだ成されていない。 』


“D”マークのアプリからだった。


ケン(やはり、直接見て確かめるって事なのか・・・)


ティナ「リーダー、見て! 誰かいるよ!」

窓から店内を覗いて見ると・・・

ソファーで横になって居眠りしている、白人系で初老の男がいた。

テーブルには、バーボンのボトルと飲みかけのグラス。

ミナコ「リーダー、交渉役・・・お願い!」

ケン「・・・分かりました。」

店のドアにCLOSEDの文字は掲げられてない。そして、施錠もされていなかった。

ケンは一応、最悪の事態を想定してみた。

( ソファーで眠りこけている男・・・ 実は強盗で、厨房の奥では店のご主人が

惨殺されていて・・・3時間後には、チームの存亡に関わる決定が下される・・)

だが、こっちだって状況は逼迫している。

ケンは「突入」する思いで、この寂れたレストランに入った。



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