第39話 日本で何が起きていたか? (1)
カフェの駐車スペースを二分するように置かれている、レトロな戦車こと
マークン。そして、黒い奇妙な対戦相手こと、カピタンのシャンゴ。
ケン「これを見てください。」
取り出す一枚の写真。
ロケットカーを背景に微笑む、イングリッド先生の姿。
カピタン「本当に・・・何を考えているんだろうな、この先生は。」
ケン「実際に会って真意を問い但したいんですが・・・ 」
バスコ「カピタン、今のうちにトレーラーを返却しておきたいんですが。」
カピタン「分かった。 俺はまだ話があるんで残るぞ。」
ペーニャ「おう。そんじゃ、ちょっくらソルトレークシティまで行ってくる。」
コンボイ級トレーラーが去った後、各々話し合うメンバー。
ステラ「あ、そうだった! リーダー、ありがと。おかげで助かっちゃった。」
ケンに借りていたスマホを返すステラ。
ステラ「一応ですね・・・現在置かれている状況は本部に報告しておきました。」
ケン「ステラさん・・二週間の間、僕らのチームはどう活動したらいいですか?」
ステラ「それなんだけど・・・ちょっと待ってくれる?」
ケン「・・・?」
ステラ「支部から支援物資が届く手筈になっているの。 もうチョイよ・・・」
空から航空機の爆音が響き始め、それが次第に大きくなってきた。
そして、塩で出来た天然の滑走路に着陸する一機の大型輸送機。
続いて、その大型輸送機の搬入出用タラップから降りてきた3台の車両。
その3台とも、真っすぐCAFEの方へ向かってくる。
まず最初にPC関連のスタッフが入り、ユニットごと交換の後、データ等の調整
が始められた。
破損した箇所の窓ガラスは、窓枠の寸法を測ってからそのまま外し、強化アクリル板に交換して終了、のようだった。
続いて、かなり多くの食材が運び込まれ、貯水タンクには水が補充された。
さらに、ソーラーパネルまで設置。
長い間放置され、不動車と化しているピックアップトラックは、元の持ち主と
連絡が取れ、一応返却する運びとなった。
ケン( なんか、ステラさん忙しそうだな・・・しょうがない、後にするか。 )
ティナとミナコが何か話し合っている。
話し終わった後、ステラのもとへツカツカと歩み寄るティナ。
ティナ「ステラさん・・・ ミナコがねぇ、お願いがあるんだって。」
ステラ「あら、何かしら?」
ミナコ「実は・・・ 日本にある事務所兼住居の賃貸契約を解約したいので、
一時帰国の許可を・・・ って、むずかしい? ティナ。」
ティナ「・・・ムズイ! ん~とさぁ、オフィスをリリースしたいんで、いったん
日本に帰らせて・・・で、いいでしょ?」
で、その旨をステラに伝えるティナ。
それを聞き、しばらく考え込むステラ。
スマホを操作し、何か検索しているようだったが・・・
ステラ「私も同行します! ティナ、あなたもね!」
ティナ「へっ!?」
ケンは左右に並ぶ奇妙なメカ、特にシャンゴを興味深げに眺めながら、カピタンと話し合っていた。
ケン「すごく滑らかに動いていたようなんですけど・・・ 操縦系統って、どうなっているんですか?」
カピタン「シャンゴは操縦するんじゃなくて・・・そうだな、着ている感じだ。」
ケン「着ている感じ・・・? どういう事ですか?」
カピタン「いわゆるコックピット内部は、フタの無いマンホールみたいになって
いて、そこに足から入るんだ。ちょうど・・・日本に行った時に入ったつぼ型の
温泉のような・・・ 」
ケン「まさか、水か液体がその中に・・・?」
カピタン「ノー、ノー! 水でも液体でも無かったよ。 中に入っていたのは・・
粒の粗めな・・・ そう、ビーズみたいな物だったな。」
ケン「もしかして、そのビーズ一個一個があなたの体の動きをトレースして・・」
カピタン「おそらくそうなんだろう。 最初、面食らったけどな。」
ケン「でも、それが・・・“着ている感じ”と、どう繋がるんですか?」
カピタン「これが不思議なもんで・・・・ 動いているうちに気にならなくなってくるんだ。 何て言うか・・・ 厚手のコートでも着ているような感じかな。」
二人が話し合っている側に、一台の車が止まった。
車から降りて来たのは、身長2mはあるスキンヘッドの黒人大男。
DRAUG特別諜報部部長 I・J 、その人だった。
I・J「ようこそ、DRAUGへ。」
カピタンとがっちり握手を交わす。
I・J「ところでケン、戦車が動かせなくなった・・・という話、詳しく聞かせろ。」
ケン「分かりました。」
CAFEの出入り口で、I・Jとステラがばったりと出くわした感じで向き合った。
ステラ「あ、あの、部長! お話が・・・」
I・J「そうか、俺もだ。」
二人の意見はこうだった。
ステラ・・・ 戦車の動かせない今だからこそ、やっておきたい事。
メンバーの、今は全く使用できていない事務所の賃貸契約を解約、
今のうちに負担をできるかぎり減らしておきたい、という要望を
受け、かかる費用や手続き等の手助けを実施。
そのためには、該当メンバーの一時帰国が必要。
日本滞在の間、身辺警護を含む同行を許可してほしい。
I・J ・・・ 戦車を動かせない、この2週間という期間は深刻な問題に発展する
恐れがある。
性能テストをイベント化し、さらなる新戦力を得たのは収穫と言えた ・ が、いかんせん目立ち過ぎた。
事なきを得たと、今だから言えるが、実際にドローンの侵入を許して
しまっている。
深刻な問題として懸念される点は主に三つ。
1、スタイラスによる空爆。
2、ナックルボールによる乗っ取り。
3、テロ組織による“新兵器狩り”。
特に、「3」により、戦車が運び去られてしまう事態は絶対に阻止。
そのための護衛を配備したいところだが、準備だけで2週間かかる。
カピタン「その護衛、俺が請け負う。 それなら問題は無いはずだ。」
I・J 「それは助かる。 ステラ、ミッションの正式な依頼という形で手続きを
取ってくれ。 それから・・ 日本に行くのは構わんが、期限を設けさせて貰う。 今日から1週間以内だ。いいな?」
ステラ「・・・・・分かりました!」
ミナコ「じゃ、リーダー・・・すぐ戻ってくるから。」
ケン「大原の事なんですが、見つかったら見つかったで、一応連絡ください。」 ミナコ「うん、そうするね。」
ステラは護衛ミッションの依頼を本部に申請。
その受理を確認した後、慌しく出発する女子会メンバー。 それを見送るケン。
何気なく自分のスマホを見ると、情報が上書きされていたようだった。
気になったので、ページを開いてみる。 すると・・・
NEW!とあったページには、犬小屋型PCに表示されていた、あの文字が。
『アップデートのお知らせ』
その内容も、撮影した時のまま、ちゃんと全文記載されていた。
ケン( ありがたい。 後でお礼しとかないとな。 )
I・J「ケン、そろそろ話を聞かせろ。」
ケン「そうでした! まず、これをご覧下さい・・・」
そう言った後、あわてて言葉を付け加えた。
ケン「あ、それ、日本語なんで、口頭で説明しましょうか?」
I・J「いや、大丈夫だ。ちょっと見せてみろ。」
ケンから渡されたスマホを見る、I・J。
( 外したことの無い )サングラスの縁を指で撫でている。
ケン「・・・何をしてるんですか?」
I・J「今、翻訳中だ。これで大抵の国の文字は翻訳できる。」
カピタン「・・・・・・」
ケン「翻訳アプリ、使えませんでしたか?」
I・J「それは文書として配信されたものだけだ。 単に写真と判断されれば、
アプリは起動しない。」
内容を黙読し、スマホをケンに返す I・J。
I・J「どうアップデートを施すか?の、詳しい説明は無かったんだな?」
ケン「そうなんです。すぐに、そう質問してみたんですが・・・」
カピタン「とにかく、待つしかないんだろう? だったら・・・」
ケン「何か探し物ですか?」
カピタン「いや、何かつまむ物で腹の虫をなだめようと思ったんだが。」
I・J「ケン、何か作ってやれ。 俺の分もな。」
ケン「分かりました。 コーヒー、先にしますか?」
I・J「当然だ。」
カピタン「ほぉ~ そいつはいい!」
空は、濃いオレンジ色に染まろうとしていた。
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