第27話 渡された危険物

3人が戦車から出てくると、秘書風の女性は三脚を付けたままのTVカメラを

地面に立て、イヤホンつきのマイクを装着、カメラの前に立った。

TVカメラの方から音声が漏れる。

『ステラ、何があった?』 『詳しい説明を聞かせろ!』等。

「先ほどは大変失礼いたしました。 どうやら、あの戦車の内部は完全に電波を

遮断する構造になっているらしく・・・そちらへ送信されるはずの映像が途切れて しまいました。   お詫びの代わりと言っては何ですが、戦車の内部で撮影した

チームリーダーの証言を録画してあります。 ご覧下さい。」


「メールでも伝えた通り、お前たちが拾得した形になっている・・その戦車だが、

処遇についての会議は現在も継続中だ。」

ケン「と、いう事は会議の決定事項しだいで、調査研究の名目・・・・言い方は

悪いんですが没収というケースも有りうるワケですよね?」

「確かに、そう言った意見もある。ただし、意見は意見だ。最終決定ではない。」


秘書風の女性が車のトランクから何かを取り出そうとしていた。

少し幅が広めなハードケースと、野球のバットを収納するケースに形がほぼ同じの

ショルダーケース。 それらをケンの目の前に置いた。

ケン「何です?・・・これは。」

「開けてみてくれ。」

ケン「・・・・・・。」 ケースの中に収められていた物は・・・

「見ての通り、クロスボウだ。」

ケン「それは分かったんですが・・・ なぜ、こんな物を?」

「これだけではない。」

ケンの目の前に提示された、掌より少し大きい透明な四角いケース。

中身は黄色いゼリー状の物質の中に入っている、パチンコ玉くらいの大きさの球。

「ファイアービーンズという名前・・・ 聞いた事があるはずだ。」

ケン「!!」

「これから、お前に正式な依頼を出す。」


ティナ「なんか・・・リーダー、話・・・長くない?」

ミナコ「それだけ大事な話してるんだと思う。待つしかないよ。」

二人とも奥の部屋の片付けは終えていたが、心配でテーブル席に戻っていた。

しばらくして、ケンら3人が客のように入ってきた。

ケン「ごめん、心配かけた。もう大丈夫。」

再び入ってきた、2mの黒人大男と秘書風の女性のなんとも言えぬ威圧感に

どうしても警戒してしまう、ティナとミナコ。

ケン「もうじき、会議の結果が出るそうだ。」

ティナ「会議って・・・なんの?」

ケン「あの“戦車”の処遇・・・らしい。」

ミナコ「ちょっと待って。もしかしたら、没収されちゃうかもって事?」

ケン「俺もその人たちに意見しましたよ。その事については。」

ミナコ「・・・・・・・」

ケン「とにかく、今は待つしかないです。」

TVカメラをセッティングし直していた秘書風の女性がケンに話しかけてきた。

「リーダー、ちょっといいかしら?」

ケン「なんでしょうか?」

「この人は?」と、ソファーで寝ている初老の男の方を見る、秘書風の女性。

ケン「この店のご主人だそうです。」

事情が今ひとつ理解できず、怪訝な表情をしている秘書風の女性。

ケンは、ご主人と出会った時の状況と、話してくれた境遇をほぼそのまま話した。


「だとすると、そのご主人・・・ 入院してもらうしかないですね。」

そう言うと、秘書風の女性はどこかに電話をかけ始めた。

すると、ものの五分ほどで「RESCUE」隊が店に入ってきた。

さすがに、この騒がしさで起き出す店の主人。

「・・・な、何なんだ、あんたらは!?」

「ご主人、あなたはどうやら通風の疑いがあるようです。それも重度の。」

「確かにそうかも知れないが・・・ 俺をどうするつもりなんだ?」

「入院し、しっかり治療していただきます。」

「俺はなあ、病院へ行く交通費や治療費も出せやしない一文無しの男だぞ?」

「安心してください。無料ですよ。」

「・・・・・マジか?」

疑り深い店のご主人は、他にも「殺し文句」を秘書風の女性から言われたらしく、

あっさりストレッチャー上の人となり、そのまま運ばれて行った。


「さてと、部外者は退場していただいたところで、自己紹介といきましょうか。」

秘書風の女性改め・・・

ステラ「新国連特殊諜報組織、〝DRAUG〟 の監査官、ステラ・ミーティアーズ

と申します。 よろしく。」

野太い声のグラサン黒人大男改め・・・

I・J「〝DRAUG〟の諜報収集部の部長をしている・・・ I・J だ。」


ちょっと待ってくれ、とケンは思った。

自分はともかく、ほぼ一般市民のティナとミナコのいる前で国家機密同然の情報を そんな簡単に公開してしまっていいのか?と。


もちろん、それにはちゃんとした理由があった。 

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