第26話 来訪者
その1台の車は、店のドアのすぐ近くに駐車した。
店に入ってきたのは、ハンディTVカメラを構えている秘書風の女性と・・・
黒いスーツに身を包んだ、2mはあると思われる黒人の男性。
スキンヘッドにスポーツサングラス。
その風貌は往年のNBAプレイヤーの一人によく似ていた。
「リーダーの、ケン・モトイはいるか?」 聞き覚えのある、野太い声。
ケン「お待ちしてました。」 とは言え、実際に会うのはこれが初めてだった。
「早速だが、案内してもらおうか。」
ケン「分かりました。」
奥の部屋から心配そうに見ている、ティナとミナコ。
ケン「大丈夫。ちょっと話してくるだけだから。」
戦車の側面に立つ、ケン。
「お前からの伝言・・・ 移動の間、音信不通とは、どういう意味だ?」
ケン「それをこれから実証します。」そう言って、戦車の側面に手を触れる。
そして、レバーが下げられ、ハッチが開けられた。
ケン「どうぞ、中へ。」
一行が戦車の内部に入ると・・・
通路は、普段見られない黄色い照明に照らされていた。
ケン(これは、警戒色・・・?)
目の前に、乗務員登録をした時のような、空中に浮かぶ文字も現れた。
だが、その文面は・・・
・未登録の人物が2名乗り込んでいます・ ・該当する項目に触れて下さい・
1.登録予定 2.来客 3.敵
ケンは、2.来客 のエリアに手を翳した。
「あ・・・!」と、秘書風の女性の声。
構えているハンディTVカメラのビューファインダーが砂嵐状態になっていた。
ケン「お持ちの携帯電話(ハンディホン)を確認してみて下さい。」
「 Out of range(圏外)・・・ 部長のはどうなってますか?」
「・・・こちらも同じだ。」
ケン(役職は部長か・・・)
「ステラ、録画モードに切り替えてあるか?」
「・・・すみません! 直ちに!」
ケンは、二人を犬小屋型PC端末のある部屋に案内した。
“来客”の二人が、まず気になったもの。 目の前にある・・・
「それは何だ?」
ケン「これでもPC端末らしいです。」
「起動できるか?」
ケン「分かりました。少々お待ち下さい。」
「ちょっと待て。なぜ、靴を脱ぐ必要がある?」
ケン「こうしないと起動できない仕掛けになっています。」
「・・・・・・」
ケンが今まで通りの手順(足)でPC端末を起動させると、ある日本語の文字が
表示された。
・2名の来客に座布団を出しますか?・
{ はい } { いいえ }
ケンが{ はい }の方に手を翳すと・・・
床の一部が座布団の大きさにせり上がってきた。
見た目は角張っていて、一見硬そうに見えたが、触ってみると感触が違う。
豆粒大の細かいブロックが、押した手の形にじんわりと沈み込む。
それでいて、沈みっぱなしという訳でもなく、中に空気があるかのような感じ。
秘書風の女性は両足を斜めに出して座り、三脚を立ててTVカメラを固定している。
グラサン、スキンヘッドの黒人大男は、野太い声で話を切り出した。
「この奇妙なPCの件は後ほど話を聞くとしよう。まずは、研究所跡でお前たちが
発見した、この戦車のような乗り物。その入手に至った経緯を話して欲しい。」
ケン「その前に、僕らより先に飛び出して行った、ミサイルの弾頭のような物体が
どうなったか・・・教えていただけますか?」
「あれは、現在逃走中だ。時速は4~50kmほどで、たいして早くは無いが・・
何せ、迂闊に接近できない。しかたなく、今は遠巻きに監視を続けている。」
ケン「・・・どういう事ですか?」
「あれに接近した車両は、ことごとくPC関連の機器がやられてしまう。とにかく
誤作動を連発させられては、こちらとしては手の打ちようが無い、という訳だ。」
ケン「空爆か砲撃は実施されたんでしょうか?」
「ダメだった。・・・傷ひとつ付けられなかったらしい。 それでも、向こうは一切反撃してこなかったので、犠牲者は誰一人出なかったそうだ。」
「すみません、話の途中、失礼します。バッテリーを交換させて下さい。」
と、秘書風の女性。
ケン「ひょっとして、議会へ提出するための映像なんでしょうか?」
「そうだ。本来なら生配信されるはずだった。」
そして、バッテリーを交換し終えた秘書風の女性から秒読みの合図。
「・・・3、2、1、・・・お願いします!」
ケンは、研究所跡での出来事を全て話した。
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