第25話 閉店直前レストラン (2)

コンロ系を見たところ、ガスの火が使えるのは一ヶ所だけのようだった。

さっきまで、パーコレーターのコーヒーをとろ火でかけていた所。

あとは、太いニクロム線が蚊取り線香のように渦巻状になっているコンロ。

電子レンジ、オーブントースター。

あと、長い間使って無かったような、ステンレスの楕円形の皿を洗い、揃えた。  それらが一通りなんとか使えるのを確認し、調理に取り掛かる。

ケン「とりあえず・・・炙り焼きソーセージのホットドッグ、オムレツとチリソース添え。それと、チーズバーガー、ブラックペッパーを効かせたバターソテーのスパムミートばさみ。 どっちを食べるか、今のうち決めといてくれ。」

ティナ、ミナコ「りょーかい・・・」

ポンポンポンと手際良く調理を進めていくケンの姿に、3人は驚きを隠せない。

「ボーイ・・・ 以前、どこかのレストランで働いていたのかい?」

ケン「某ハンバーガーチェーンで・・パートタイムワークを1年ほど、ですね。」

「ほう・・・ たいしたもんだ。」

ティナ「マスターは何か食べなくていいの?」

「俺は・・・残っていたピザを全部平らげちまったんで、今は腹いっぱいだ。」

そうこうしているうちに、例の二品が皿の上に乗せられた。

ケン「へい、お待ちー。」

ミナコ「ティナ、先に選んでいいよ。」

ティナ「え~? なんか、ワルイよー。」

ミナコ「でもさ、正直迷うよね。」

ティナ「うん、それは言えてる。」

ケン「次も同じの出してあげるから、交互に食べればいいぞー。」

と、言いつつ壁掛けの時計を見る。 30分近く経過していた。

ケンは自分の分、玉子焼きの錦糸玉子風刻み、マヨネーズ6、マスタード4和え

トーストを口に運びながら、黙々と次の料理に取り掛かる。


店の主人は、バーボンをチビチビ舐め、まったりしている。

ティナとミナコはテーブル席で、お互いにスマホをチェック中。

ニュースを見ているティナ。

忙しそうにメールを打つミナコ。

ティナ「・・・ミナコも、どっか他にホーコクするとこあったの?」

ミナコ「報告っていうか・・一緒に仕事するはずだったカメラスタッフに、あたしの無事を知らせるメールをね。 ・・・ティナ、写真お願いできる?」

ティナ「おーけー。」


1時間経過した。

ケン「どうする? もう一品ぐらい作ろうか?」

ティナ「・・・・・なんか、もういいや。ごちそーさま。」

ミナコ「ホットドッグとハンバーガー二つ食べただけなのにね。」

ティナ「だってさあ、日本にいた時よりサイズ大きめだったよ?」

ミナコ「そうね、あたしもお腹いっぱい。コーヒーもけっこうおいしかったし。」


まだ、問題は解決していない。

ケン「ご主人、先ほどの話の中で・・・最後の客と、仰ってたようなんですが?」

「ああ・・・それな・・あんたらを最後にこの店を畳もうとしたのは事実だ。」

聞けば、数年前から足を悪くして以来、奥さんが調理をするようになってから客足が遠のいてしまった、との事。それでも、年に数回ある車とバイク関連のイベント

が催された時は、それなりに客は来ていたそうだが、あまりいい評価ではなかった

らしい。コストを最重要視する奥さんと、意気投合した客と酒を飲み交わす事が度々あったご主人と、意見が衝突することが重なり、ついに離婚。

奥さんは客の一人とデキていたらしく、そのまま出て行ってしまったそう。

それでも、友人のバイクショップのオーナーはレース用バイクの試験走行の度に何度か立ち寄ってくれていたが、今回の国連軍の査察で、その友人はおろか、以後の客足も完全に途絶えてしまった・・・ との事だった。


ケン「ところで、ご主人・・・ 僕らは泊まるところを探しているんですが、どこかご存じないかどうか、教えていただければありがたいのですが。」

「ああ・・・ それだったら、奥のベッドルームを使うといい。ただな・・・」

ケン「・・・何か問題でも?」

「少々、お片づけと掃除が必要だ。あと、その奥にシャワールームがある。そこも 

使ってくれて構わない。」

ケン「ティナ、聞いての通りだ。」

ティナ「分かった!」

ミナコ「え、なんて?」

ティナ「説明しよう、そうしよう。」 

手短な説明の後、二人は奥の部屋に入った。


3時間経過。

遠くから爆音が響いてきた。

ケン「なるほど。時間通りだ。」

少し離れた場所に着陸したレーダー哨戒機から、1台の車が降りて来た。

この辺一帯は街灯自体が存在してないため、夕日が暮れきってしまうと暗闇と化してしまう。 満月でも出ていないと、暗闇度は一層顕著になる。

そんな中・・明らかに車のヘッドライトと分かる、二つの光の点がこちらに向かって来ているのが確認できた。


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