第11話 何かの乗り物の中で・・・

ティナ「なに?『ようこそ』って? パソコンでも起動したの?」

ミナコ「案外・・・そうかもしれないよ。」

表示された文字が変わろうとしていた。

『これより乗務員登録を行います。一人づつ矢印の方向に進み、指示に

従って下さい。』

ケン「・・・俺たち、何かに乗ってしまった・・って事か?」

その矢印が現れた。  通路の奥の方へ向かっている。

ケン「他に誰か乗っているかもしれない。一応従うフリはしておこう。」

ティナ「わかった。注意しとく。」

ミナコ「何か危険そうだったら、すぐ合図してね。」

ケン「何にせよ、声はかけます。・・・じゃ、お先に。」

矢印が指し示す方向へ、狭い通路を慎重に進むケン。

そして、『この部屋にお入り下さい。』の表示。

中に入ると、『乗務員登録を行います。準備はよろしいですか?』

の表示の下に、『はい』 『いいえ』。

ケンは躊躇無く『はい』の方に手を翳した。

『今からスキャニングを開始します。動かないで下さい。』

縦、横にびっしりと光の線を浴びせられるケン。

『名前、苗字の順番で、声を出して自分の名前を言ってください。』

ケン「・・・ケン・モトイ。」

『あなたを含む乗組員は総勢何名ですか?』

1から9までの数字が表示された。

”3”に手を翳すケン。

『あなたの登録が完了しました。引き続き、あと2名の登録が必要です。』

ケンがティナとミナコの所に戻ってきた。

ティナ「どうだった、つーか・・声出てたみたいだけど?」

ケン「指示通り名前を言っとけばいいみたいだ。今の所、特に問題無い。」

ミナコ「やっぱり、何かの乗り物? まさか、宇宙船じゃないわよね・・」

ティナ「とにかくさ、ここから出るにはこの方法しかないんでしょ?」

ケン「どうも、そういう事になりそうだ。・・で、次は誰が行く?」

ティナ「あたし、行ってくる。」

しばらくして、通路の奥の方から「ティナ・・プエンテ」と声が聞こえた。

ケン「須田さん、全員登録が済んだらコレ、再確認しましょう。」

ミナコ「スマホがどうかしたって・・・あ、そっか!」

ティナ「こらー、二人でなんの話ししてるー?ミナコの番だよー。」

ミナコ「え? もう済んじゃったの?」

ティナ「だって、体をスキャンして、名前を言えば、もうOKだよ。」

しばらくして、通路の奥の方から「ミナコ・・スダ」と、声。

すると・・・ ”登録の小部屋”から横に光が差し込むのが見えた。

ミナコ「来て! なんか、部屋みたいになってる!」

さほど明るくは無い照明の部屋は割りと広めのようで、寄棟型の屋根の

形をした実験用ハウスに似た物体が中央部を占めていた。

大きさの程度は、家庭用大型冷蔵庫を横倒しした位。

今3人がいる部屋を横長とするならば、前方に見える3箇所の扉。

左右に、少しだけ大きめなハッチと、3人がこの部屋に入った左端の扉を

含む、中央と右端に位置する手前の扉。

ケン「まずはここも調査・・と、行きたいところなんだが、さっきも言った

通り、自分たちのケータイの再確認をしたい。」

ティナ「番号の交換は最初にやったよね?」

ミナコ「ま、とにかく話、聞こ。」

ケン「二人とも、改めてケータイの画面を見て欲しい。」

ティナ「・・・特に・・なにも・・ねぇ?」

ケン「今の電波状況・・”圏外”になっているはずだ。」

ティナ「あ、それはしょうがないじゃん。地下はダメよ。」

ミナコ「地下鉄だったら、Wi-Fi設置してあるから問題無いけど、ここは

そうじゃないって事よね。」

ケン「改めて再確認してもらいたい事は・・圏外の時に電波が届く範囲

であれば、中継基地を介さなくても通話が可能なトランシーバーモード

が使用可能か、どうかなんだ。例えば、さっきまでの状況でバラバラに

逸れてしまったとしよう。連絡取りたいけど、あいにく圏外の表示・・

そんな時、このモードに移行できていれば通話ぐらいはできるはずだ。」

ティナ「これ知ってると知らないとじゃ、えらい違いね。」

ケン「確か・・・互いに番号を保存してあれば、それで使えるんだが、

ひとつ、提案がある。」

ほんのちょっとだけ、無言の間があった。

ケン「須田さん、ダメもとで、大原ルミに電話してみてくれませんか?」

ミナコ「・・・・・そうね、かけてみる。」

ティナ「そっか! その手があったね!」

ケンは、人差し指一本立てた手を閉じた口の前にもってくる古典的な

ポーズをティナに見せた。   黙って頷くティナ。

ミナコは自分のスマホを操作し、耳に当てた。





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