疾走する灯台

もりおかねた。

第1話 雇われ諜報員

まるで、南極の大氷原のような風景だった。                  だが、足元の”氷”は全く冷たくなく、むしろ「暑い・・」気温だった。    

少し揺らいで見える、白とこげ茶の境目の風景。                空はやたら青く、日射しがキツイ 。真っ白な地面が日射しをさらに反射するせいもあって、濃いサングラスは欠かせない。                    グレートソルトレーク、ボンネヴィルスピードウェイサーキット。        だだっ広い塩の平原に点在している数々の車。                 それらは皆、主翼の無いジェット戦闘機かロケットを横倒しにして車輪を取り付けたような物ばかりの集まりだった。                       一人の日本人の若者が、 ”ジェット&ロケットカー エキジビション・ラン” なる催しの関係者であろう人物にある一枚の写真を見せ、何かを尋ねているようだった。 係の男は双眼鏡を若者に手渡しする前に、指で一点の方向を指し示した。                                 結局のところ、大会運営のサポートカーに便乗させてもらい、現場に着く。   「なんか、国連軍の査察があるらしいんで、案内はここまでだよ。」        係の男は、そう言い残し運営基地へ戻って行った。              「そうか、それでレースが行われていないのか・・・」   若者の目の前にある、全長10mはありそうなロケットカー。  時おり吹く風の音に混じる、かすかな虫の羽音に似たうなり音。      「・・・・・・」                                       

若者は手持ちの写真をもう一度見てみた。                   白人系の大人の女性が微笑んでいる。だが、その背景は・・・          全く同じ風景、そして・・・全く同じロケットカーだった。           若者は手持ちのスマートホンで写真を撮り始めた。               前後左右、斜め、真横はフレーム内に収まるよう、計6枚。           更に、数あるうちの、図案化された人工衛星に ” D ” の一文字が書かれているアプリを選択し、先ほど撮影したロケットカーの写真6枚を送信した。

すると、程なくして着信があった。 若者が電話に出ると、野太い男の声が。

『写真6枚、確かに受け取った。調査する価値はありそうだ。 だが・・・』

野太い声はさらに続いた。

『それにしても、仕事が遅い。  やはり、公共交通機関に頼っていては行動範囲がどうしても制限されてしまう。時間も掛かるし、襲われる危険性だってある。』

メールの着信音がしたが、一方的な話はまだ続いた。

『お前のように単独での行動はデメリットの方が多い。そこでだ・・・』

突然、スマホの画面いっぱいに長文(英語)が表示された。

『そちらに ”登録申請書”と推薦状を送信した。で、まず先にお前がやる事は・・』

ひゅう、と一瞬だけ風が横切った。

『お前自身の ”TEAM” を立ち上げる事。まずはそこからだ。』

「・・・ちょっと待ってください。そんな事って可能なんですか?」

『多少乱暴な言い方をすれば・・・未経験のド素人をあと二人ほど頭数を揃えてプロフィール登録した後で申請しても、何ら問題は無い。』

「ですが、ここでは知り合いが誰もいませんし、コネも無いです。」

『それなら”TEAM~RELEASE”で検索してみろ。』

若者は、表示されている英語の長文のページを指で払い、言われた通り検索。

すると、『国連直属及び関連帰属TEAM退団者名簿』というサイトが表示された。

『ちょうど、すぐ近くに一団体滞在しているから当たってみるといい。以上だ。』

{ B・B・B 退団者 二名 }と、あった。

早速、先方へ連絡。アポを取り、指定の時刻に訪問してみたが・・・

「ごめんなさいね。たった今、一人移籍先が決まっちゃったのよ。」

ブロンクス・ブレイブ・バロンズ広報担当は今ひとつ歯切れが悪い。

「もう一人いるんだけど、あまりお勧めできないのよね・・・」                                                            

       

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