第51話 偽装している一本の木

駐車場に停車している、ソーラーパネルを設置したトラバント風乗用車。

しばらくして、牛丼店から出てきた二人の老人。


A・X「確かに美味しかったけど・・・ランチにしては随分忙しないと思うよ?」

B・B「セワシナイと思います、確かに。ですが、贈り物の性質上仕方ないのです。

チャージし終わった時点で、すぐにでも手渡ししなければならない厄介な物・・・

というのは御自身でも仰ってたじゃないですか。」

A・X「わかってるよ。僕がゆっくりしたせいで君がスピード違反なんて、あってはならない事だからね。」

B・B「その通りですよ。この交通の流れに沿って行けば、日の入り頃には到着するはずです。 さ、行きましょう。・・・慌てずに。」


国立市から甲州街道へ入ったトラバント風乗用車は、山梨県方面に進んで行く。

そして、目的地であろう場所に車を止めた頃にはとっぷりと夜は更けていた。


A・X「やれやれ・・・日の入りどころか、だいぶ遅刻しちゃったな。」

B・B「まさか、甲府市を抜けるのにこんな時間がかかるとは思いませんでした。」


いわゆる田舎道のため、照明は道路に等間隔で並んでいる街灯だけ。

車を停車している場所は、本来ならバスの停留所。 すぐ近くに大きな橋。

車から見ると、右側に城壁のようなブロック塀が連なる。

そのほとんどは落石防止用のネットが張り巡らされており、その上は森林地帯。

道路をはさんで左側は流域面積こそあるものの、川幅はさほど広くない川。

あとは、角が取れた岩が密集している比較的広めの河原。


A・X「ちょっと、行ってくる。」

B・B「お気を付けて。」


丸メガネ、白ひげの大男老人は車のリアトランクを開けた。

中に、何やら機械じみたスーツケースのような物。

大男老人は、それに差し込んであったコードを介したコネクター接続部分を

2箇所、慎重に外す。


A・X「・・・よし、大丈夫そうだ。」


車を停めてあるバス停のすぐ隣に、釣具屋兼定食屋だったらしい廃屋がある。

大男老人は、機械じみたスーツケースをカバンのように持つと・・・

廃屋のすぐ脇にある、釣り客が利用していたであろう階段を降りて行った。

角の取れた岩だらけの河原に降り立った大男老人の目の前に、〝それ〟はあった。


横たわる、10mはあろうと思われる一本の丸太。

だが、丸太にしては不自然な位、木の葉や小枝がびっしりと張り付いている。

いわゆる、木の表面や地肌が一切見えていない。  それどころか・・・

大男老人が立つ目の前の部分は、所々に金属らしき地肌が露わになっていた。


A・X「持ってきたよー。」


すると・・・

金属らしき地肌が露わになっていた箇所が自動ドアのように開いた。


?「ご無沙汰しております、おじい様。」


そこにいたのは、白髪でショートカット、青い瞳の少女だった。

真っ黒な、飾り気に乏しいワンピースを着ているが、なぜか裸足。


A・X「一応、中身を確認してくれるかい?」


そう言って、大男老人は機械じみたスーツケースを開けた。

中にはバレーボール大の、丸いゴツゴツした岩石のような物体。

亀甲模様の線が交差している箇所に、角張った真っ黒い棒。

それが生えているのか、差し込まれたのかは、説明自体されなかった。


?「・・・・・・」


大男老人の差し出した、機械じみたスーツケースの中身を確認している様子の

白髪少女。


?「さすがです、おじい様。 確かに受け取りました。」

A・X「それはそうと、この間は秀太君を助けてくれて、ありがとう。」

?「でも、ケガを負わせてしまいました。 あんなミサイルなんて来なければ、

もっとスムーズに乗り込ませる事ができたはずです。」

A・X「でもさ、君が機転を利かせていなければ、一機確実に落とされたよね?」

?「はい・・・ あれは、本当に危険な賭けでした。」

A・X「ホントにもう・・・次から次へと厄介なモン作ってくれちゃうもんなあ。」

?「・・・おじい様、誰か来そうです。」

A・X「おっと、そんな感じだねぇ。 じゃ、そろそろズラかるとしようかな。」

?「では、お元気で。」

A・X「君もね。」


大男老人が車に乗り込んだ時、対岸の反対車線から一台のダンプが。

そして、橋の真ん中で停車。 運転手が降りてくる。

どうやら、手持ちのスマホで河原の辺りを撮影しているようだった。

河原に横たわる異様な一本の丸太を、不思議そうに眺めていた運転手だったが・・・

しばらくして自分のダンプに戻り、その場を後にした。


先ほどのダンプが去り、車の往来が無くなったのを見計らったのか、二人の老人が

乗るトラバント風乗用車は静かなエンジン音をたて、この場所を離れたのだった。






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