第6話 ケン、マークされる。

ケンは待合室を出て電話にでると、例の野太い声が聞こえた。

『チームは結成できたようだな。仕事発注の情報も、こちらに入っている。』

ケン「ですが、移動手段をまだ確保できていません。」

『そんな事だろうとは思っていた。こちらで手配は可能だが、どうする?』

ケン「もう少し粘ってみます。ただ、帰りの時はお願いするかもしれません。」

『了解した。・・・おっと、邪魔が入ったようだ。 いったん通話を切る。アプリは表示したままにしておけ。 以上だ。』

いつの間にか、ケンのすぐそばにフライトスーツを上半身だけ脱いだ女性がいた。

「最底辺のチームなのに、”Dアプリ”で通話って・・どういう事かしら?」

ショートカットの金髪、目ヂカラが強そうな青い瞳。かなりの美人。

「失礼。私、ここの査察の護衛を任されている、VIRGINIA・VIOLET・VENUSの

隊長、ヴァレンティーナ・シュニーヴと申します。」

ケン「・・・で、ご用件は?」 この一言に女性隊長がカチンと来たらしい。

「なんですか、あなたはっ!?自己紹介もできない野蛮人ですか!!?」

ケン「・・・いや、何と言うか・・最底辺のチームはクズ同然に扱われて・・」

「お黙りなさいっ!!だいたい、あなたは・・・」と、懇々と説教が続いて・・

ティナ「リーダーお疲れ。 何か収穫あった? ・・・あれ?」

ミナコ「その人、どちら様?」

ケン「まぁ、いろいろあって・・とにかく、この人の話を聞いてやってくれ。」

改めて3人の自己紹介が済んだ後、ケンはチームの窮状を話した。

それに対し、シュニーヴ隊長は、ある「交換条件」を持ち掛けてきた。

「通常でしたら、3人単位のチームに”監査官”が帯同する事はまずありません。

仕事も、終了すれば詳細な内容と証拠映像を報告送信すれば済む程度の物しか

出来ないし、その前に国連からの承認も・・他チームの外的支援の一端ぐらい

の仕事がせいぜいと思われます。ところが・・あなたのチームは、なんと自ら

仕事を発注し、しかも承認された。これは極めて特殊事項であり、見過ごす訳

にはいきませんでした。何故なら場所が・・あの、”F.U.E.L研究所”だからです。

聞けば、人を探すためにあの研究所跡に行きたいが、車などの移動手段が確保

できずにいるそうですね。 それでしたら、国連監査官の資格を持つ私が車を

手配し、現場までお送りしても良いのですが・・いかがなさいますか?」

「渡りに船」だと、ケンは思った。(陸の上だが)

ミナコはティナに通訳してもらいながら話を聞いている。

ケンはメンバー2人と相談し、概ね賛成の意向をつたえるとシュニーヴ隊長は

「しばらくお待ちください。」と言って待合室から出ていった。

ケン「・・・・・・・」 少し時間を置いて外の様子を伺う。

ティナ「リーダー、あの人がどうかしたの?」

ケン「二人とも、聞いてくれ。あの自称監査官の隊長さんが、何かと理由を

つけて映像と写真の提供を迫って来るかも知れない。その時は、一切お断り

をしてくれ。よろしく頼む。」

ミナコ「・・・分かった。注意するね。」

ティナ「それってさあ、聞いたことあるよ。”ヨコドリ”ってヤツじゃない?」

ケン「その線も充分に考えられる。 あの隊長さんは俺たちの仕事に際し、

”協力”という形で国連に申請して、どうもそれが通ってしまったみたいなんだ。

それ故、警戒は一応しておくべきなんだけど、それを悟られないように。」

絶妙のタイミングかどうか、ガチャと、ドアの開く音がした。


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