第5話
*
「楓さんは、やっぱり優しいね」
すっかりいつも通りに戻った先輩は、太ももから頭を下ろして仰向けになっている。
「そうですか?」
「そうだよー」
また彼女の頭を撫でると、これ以上になく幸せそうな表情になった。
「ありがとう、ございます」
――違うんですよ先輩、本当は残酷な人間なんです、私は。
「……」
「……なにか?」
そんなことを思っていると、先輩が私の顔を真顔でじっと見つめてきた。
「楓さんから、悲しそうなにおいがする」
ムクリ、と起き上がった先輩が、私の首筋辺りに鼻を近づけてきた。
「な、何ですかそれ」
思わず彼女の顔を押しのけて、私は先輩から離れる。
「からかわないでくださいっ」
「本当に分かるんだよ、私」
……先輩は犬か何かですか。
いつもの子供のような無邪気さを、どこにも感じない彼女から、生徒会長としてのすこし大人びたオーラを感じた。
どうやら、本当に冗談じゃなさそうだった。
「人間生きていれば色々あるよね」
勝手に納得した様子で、うんうん、と頷いて、先輩は私との間を詰めてきた。
「先輩に……、何がわかるんですか?」
私はつい、彼女にちょっと冷たい声で、突き放す様にそう言ってしまった。
「当然、私には何も分からないよ」
私はあなたじゃないからね、と、先輩はそんな私の発言に動じる気配はない。
私が何も言えないでいると、
「まあ、湿っぽいのはこの辺にして、一緒にお風呂入ろー?」
また元のふんわりした感じの声でそう言い、話を変えた先輩は、煩悩垂れ流しの目を私に向けてきた。
「一人で入ってください」
「えー」
唇を尖らせる先輩は、流れ的にそういうアレじゃないのー、というよく分からない発言をする。
「洗いっこしようよー」
「嫌です」
内容がアレな事とはいえ、話を変えてくれたのは正直な所ありがたかった。
「髪も洗ってあげるからさー」
「自分で出来ます」
……でも、その恩と裸の付き合いとは、胸囲の格差的な理由で釣り合わない。
「頭皮マッサージも出来るよー」
「結構です」
「ぬーん……」
やっと諦めて立ち上がった先輩は、一人でとぼとぼと、キッチン右奥にある脱衣所に向かって行った。
「すごいな、先輩は……」
私は小声でそう独りごちて、仰向けに身体を倒した。
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