第49話
「次は、在校生からのビデオレターです」
かなり和やかな空気の中、照明がまた真っ暗になって、部活別に一言ずつリレーする動画が流れ始めた。
今までテンションを上げる内容ばっかりだったけど、急に感動を誘うものになって、しみじみとした空気感に変わった。
すでに泣き出している人がチラホラいる中で、3年生のイベントのスナップショットを集めた動画に変わった。
おあつらえ向きなBGMなのもあって、肩を震わせてる人が何人か追加された。
逆サイドの人がもらい泣きを始めたところで、その動画は終わって、ステージの真ん中の一番前に演説台が置かれた。
私はステージ右袖から、そこに向かう先輩をライトで追尾する。
位置についた先輩は一礼すると、何も見ずに情感たっぷりのスピーチを始めた。
笑いを取りつつ、体育祭の事を中心に話した先輩は、
……あれ。今、ふらついた?
もう少しで締め、というところで、ちょっと身体が揺れたように見えた。
他の人から見ても、多分大して不思議に思わないだろうけど、真ん中辺りに座っている頭が大きめに動いた福嶋先輩も多分、私とほぼ同時に気が付いたっぽかった。
とりあえず最後までやり遂げた先輩は、何ごとも無かったみたいに一礼して、拍手を受けながら左袖へはけていった。
朝見る限りだと、全然体調が悪そうに見えなかったし、様子がおかしいのもあの日から見てない。
袖でなにかあった……、ってことは無いよね。
後で直接は訊けないし、下手に探りを入れると、先輩なら感づくからそれも無理だ。
というか、分かっても何も出来ないんだし、とりあえず福嶋先輩に連絡を取っておこう。
校長先生のスピーチが一切頭の中に入らないまま、送別会はお開きになった。
3年生が完全にはけたところで、電源を入れ直した携帯に、すぐ福嶋先輩からメッセージが来て、やっぱりあのふらつきの事に気付いたかの確認だった。
会場を片づけてる間、先輩をチラチラ見て確認していたけど、いつも通りの外向けな表情でテキパキと指示を出して、自分もパイプ椅子を運んでいた。
疲れてる、訳では無さそうだね。やっぱり。
それでも、先輩の負担を和らげるために、私も積極的に色々手伝って、予定時刻よりちょっと早めに片付けが終わった。
教頭先生が私達が頑張ったご褒美、ということで、教頭権限で早めに昼休憩に入って良いよ、というお達しが出た。
他の人が、購買とか学食とかへ行ったりする中、私は先輩と二人きりになれる生徒会室へと向かった。
「あ、エアコン付けてるんですか」
「えへへ。ナイショだよ」
どうやら、元から昼休憩にそうするつもりだったみたいで、先輩はちょっと悪ぶった笑みを浮かべた。
いつもの様に入り口に鍵をかけてから、私がソファーに座ると、先輩は当たり前の様に隣に座って、私の膝の上に頭を乗せてきた。
「うー、疲れた……」
「お疲れさまです。先輩」
「いたわりを追加してくれたら嬉しいなー」
「はい。頭撫でれば良いですね?」
「ああー……」
しんなりしていた先輩は、私が右手でつむじの辺りを撫でると、目を閉じて至福の表情になっていた。
うへうへ、と言ってる本来の先輩も、やっぱりいつも通りにしか見えない。
ただプレッシャーで疲れただけ、なんだろうか。やっぱり。
なんにしても、先輩からなんか言っては来てないし、まあそういう事だろう、と私は福嶋先輩にメッセージを送った。
期末テストも3週間後ぐらいだし、ちょっと甘くしてあげるぐらいはしよう。
ただし、逆にプレッシャーになっちゃうから、理由は言わずに不自然にならない程度に。
「すや……」
そうやって撫でているうちに、先輩はあんまりにも心地よかったのか、いつのまにかゆるふわな顔をして寝ていた。
――なんていうかこう、凄く、かわいいなあ。
ありきたりな事を思いながら、ちょっと目を細めていると、福嶋先輩から、ひとまず今日いっぱいはよく見てあげて、というメッセージが送られてきた。
珍しく誤字があるから、どうやら気が気でないっぽい。
それはまあ良いとして、とりあえずさし当たっての問題が一つ。
これ、昼休憩開始きっかり起こした方が良いのかな?
あんまりにも気持ち良さそうにしてるしなあ、としばらく悩んだけど、とりあえず起こしておくことにした。
「はうっ! 今何時!?」
「12時20分です」
「良かったぁ。起こしてくれてありがと……」
どうやらそれで正解だったらしい。
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