第20話
*
そんな色々あった昼休みが終わり、大事な午後の競技が始まった。
第6競技の10人制ドッジボールはトーナメント戦で、全滅制になる決勝以外は1試合3分の普通のルールで行なわれる。
で、結果はというと、
「みんな頑張ってくれてありがとうね!」
「会長の応援のおかげっすよー」
「やー、それ程でもー」
「悠花は2回に1回暴投してたけどね」
「その分いっぱい当てたから良いじゃんまっきー」
1年の陸上部女子2人と、2年の野球部男子1人のそれぞれエースの3人のおかげで、久々の1位になって、総合一位の青組と10ポイント差まで差を詰めた。
一応私も出たけど、1人も当てられずに退場になって、あんまり役に立てなかった。
「すいません。いまいち貢献できなくて」
次の競技の道具出しに行くとき、その事を先輩に小声で謝りに行くと、
「いやいや、凄くしてたよ。高木さんが当てられたときに、後ろにいた子があの試合で1番当ててたからね」
先輩は一瞬2人でいるときの笑顔を見せて、私をそうフォローしてくれた。
どうやら気がつかないうちに、ちょうど私は盾になってたらしい。
先生達がドッジコートを消して、サッカーのハーフコート位の枠を2つ作った。
それは、リレーの次に配点が高い、第7競技のスポーツチャンバラのフィールドだ。
スポーツチャンバラのルールは、1チーム30人のトーナメントで、、8分間でより多く人数を減らした方が勝ちになる。
ヘルメットに付いた紙風船を、スポンジ剣で割られると退場になる。
「60人もいると案外迫力ありますね。先輩」
「だね」
少しスケールは小さいけど、側から見ると戦国時代の合戦図みたいだった。
私達のチームは、さっきの3人と剣道部の5人のおかげで、難なく決勝戦までたどり着いた。
「よーし! 後一戦張り切っていこー!」
先輩は私を含めた決勝戦のメンバーをそう
分かりやすいなあ……。
私は他の人に合わせて、おー! と言いつつ、内心苦笑いしていた。
準決勝まで出ずっぱりだった先輩は参加しないので、その後すぐにフィールド外にはけて、そこから主に私へ手をメガホン代わりにして声援を送りはじめた。
本当わかりやすいなあ……。
フィールド内で左端の位置についた私は、剣を少しだけ挙げてそれに答える。
それからすぐ、試合開始のピストルが鳴った。
「行くよまっきー!」
「りょーかい!」
エースの3人と剣道部員5人を先頭に、翼の形で相手の総合4位の黄組へと攻め込む。
これまでと同じ様に、先頭の8人がひたすら風船を割っていって、それ以外がその8人をひたすら囲まれない様に陣形の維持をする。
だけど相手が固まって防御しているので、流石のエース達も攻めあぐねて、撃破するペースが大幅に遅くなっていた。
そのうち、こっちの進撃がピッタリと止まって、逆にこっちが相手の剣道部員の猛攻に押され始めた。
特に右側の陣形の崩れが激しいけど、私がいる左側もギリギリなので、救援に行こうにもいけない。
「ヤバイヤバイ! もうあっち突破される!」
「俺ちょっと行ってくる!」
「もう何人か頼む!」
そうこうしているうちに、残り時間が1分になって皆が焦りだし、数人が右側に行ってしまった。
「あっ」
私がそれに一瞬気を取られた
すると、その空いた穴から相手の選手達がなだれ込んできて、こっちの陣形が完全に崩壊した。
「あわわ……」
青い顔をする先輩は、だらだらと汗をかきながら、総崩れしていく様子を
試合終了のブザーが鳴ったときには、明らかに赤組の方が少なかった。
「すいません会長……」
「ごめんな吉野さん」
「いいのいいの。相手が強かっただけだから」
ガッツポーズしたりして盛り上がる相手を背に、赤組はトボトボ、といった様子で自チームのテントに戻っていく。
「ほら、ポイント差自体は縮まってるよ! リレーで
本部の後ろにある崖の上に置かれた得点板を指さしながら、先輩は士気がダダ下がりになっている味方を、精一杯明るいトーンでそうまた鼓舞した。
「そうそう! まだ何とかなるよ!」
「最後まで諦めたらダメだな!」
そのおかげで、あっという間に皆が幾分明るい表情になった。
この辺は流石だなあ……。
改めて先輩の人心掌握能力を目の当たりにして、私は感心しきりだった。けど、現在進行形で先輩が無理をしている事を知っている私は、少しだけ危うさを感じていた。
――だってあんなに動揺した先輩は、今まで一度も見たことが無かったから。
全員参加リレーは、あんな顔をさせないようにしなきゃ。
だから私はそう決意して、額のはちまきをきちんと締め直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます