第14話
「うーん。にしても暇だねぇー」
「そうですね」
丸1時間が
「1回ぐらいなんかあっても良いのに」
「フラグになりますよ」
「なーん。またそう言う事言うー……」
そんな会話の直後、狙いすましたかの様に、トランシーバーから放送部部長の3年女子の声が聞こえてきた。
「回収しちゃいましたね」
「ねー……。はあ……」
ため息を1つ吐いた先輩は、それを手にとって用件を聞いた。
彼女が言うには、部員の1人が迷子を見つけて、その子を放送室で預かっているけど、自分達は朗読劇をしに視聴覚室へ行かないといけないから預かって欲しい、とのことだ。
『呼び出しはしたから、多分親御さんはすぐ来ると思うよ。どうぞ』
「分かりました。すぐ行きます。どうぞ」
先輩の返事を聞いた部長さんは、よろしくねー、と言って会話を終わらせた。
*
生徒会室がある特別教室棟の手前に建つ管理棟1階にある、放送室へと早足で向かうと、部長さんが小学生ぐらいの男の子と手を
「わざわざ呼び出してごめんね会長さん」
「いえいえ、暇過ぎて申し訳ないなあ、と思ってたんで」
申し訳なさそうな笑みを交えながら、片手で拝むようにして部長さんがそう言うと、先輩はさっきの態度と真逆の事をにこやかに言った。
「そんじゃよろしくねー」
先輩に男の子を預けた部長さんは、歩き出しながら手を振ってそう言うと、特別教室棟へと猛ダッシュで向かっていった。
「お母さん、もうすぐ来るからね」
「うん……」
人当たりの良い笑みを浮かべて、男の子に目線を合わせてそう言う先輩の背中からは、何となくだけれど、少し寂しそうな感じがした。
少しして。
「あっ、お母さん!」
3人でしりとりして待っているところに、赤茶色の長髪で背の低い、その子の母親が慌てた様子でやってきた。
「ご迷惑おかけしてすいません……。ありがとうございます」
「いえいえ」
息子さんと一緒にぺこり頭を下げた彼女へ、先輩は、これも生徒会の仕事ですから、とにこやかに対応する。
「本当にありがとうございました」
もう一度お礼を言った彼女は、息子さんの手を引いて、特別教室棟の方へと歩いて行った。
そんな親子の後ろ姿を見送った後。
「先輩、お腹空きませんか?」
「うん。空いたー」
「学食でも行きます?」
空腹を覚えた私がスマホの時計を見ると、12時過ぎになっていたので、私は先輩にそう訊ねる。
「んー。せっかくの学祭だし、模擬店で食べたいな」
すると先輩は少し考えて、クラスへの顔出しもしたいし、という理由でそう返した。
「じゃあそれで行きましょう。何食べます? 先輩」
私が先輩の手を握ってそう訊くと、
「かっ、楓さん!? そそそ、外でそんな……」
先輩は
「何慌ててるんですか? 別にみんなやってる事じゃないですか」
「そっ、そうだよね……。うん……そうだよね……」
女の子同士が手繋いで歩いてるのよく見かけますよ、と言うと、先輩はなんかにやけ気味の変な顔で、自分を納得させるようにもごもご言った。
部屋ではもっとべったりなのに、今更なんでそんなリアクションするんだろ……?
ちょっと挙動が怪しい先輩と一緒に、私は特別教室棟を通過して教室棟へとやってきた。
「やあやあ高木さんと会長ー。お化け屋敷寄ってきませんかー」
角を曲がると、目と口だけ出る白い布を被った、同級生の女子生徒の
彼女はクラスとかは関係なく、誰とでも仲が良い人で、転校初日に私のクラスへ突入してきて、話しかけられた事がきっかけで仲良くなった。
「並んでないからすぐ入れるよー」
「どうします、先輩」
「うーん。そうだね……」
「お願いするっす会長ー。人が来なくて暇なんすよー」
「あー、えー。じゃあおね――」
「よしきた! 2名様ごあんなーい!」
勢いに押し切られた先輩が首を縦に振りきる前に、坂田さんは暗幕で覆われた教室へと駆け込んで、中にいるだろうクラスの人へそう叫んだ。
「少し仕込みがあるんで、ちょっと待って下さいねー!」
彼女はひょこっと顔だけ出して、出来たら呼びますんで、と言うと、すぐに引っ込んで戸を閉めた。
「……先輩、怖いの平気なんですか?」
「そっちは平気だけど、びっくりする系が……、ね……」
しばらく呆気にとられていた私は、同じ状態の先輩に訊くと、先輩は苦笑いしながらそう返した。
高校生の学祭クオリティーなら、多分それ系だろうな……。
先輩が驚きのあまり、思わず素に返らないか心配しながら、坂田さんから呼ばれて私達は中に入った。だけど、
「せっ、先輩……。こ、腰が……」
「た、高木さん大丈夫?」
「大丈夫じゃ無いで――ひゃああああ!?」
「手持ってるから足に力入れて、ほら」
「む、無理ですー……」
まさかのめちゃくちゃ気合いの入った怖い系で、先輩と逆で怖いのが苦手な私は、先輩にしがみついてなんとか出口までたどり着いた。
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