第9話
やっぱりというか何というか、先輩は演技がめちゃくちゃ上手かった。
しかも、1週間前に台本を貰ったのに、先輩はもう完璧に内容を覚えていた。
それに対して私は、台本を見てるのにかなりの回数詰まったりして、大分みんなの邪魔をしてしまった。
でも、先輩がフォローしてくれたおかげで、2~3回通しで練習したら、ほぼそういう所はなくなっていた。
そんな具合で、練習中は完璧超人ぶりを見せていた先輩だけど、
「うへへ……。これが楓さんの……」
2人きりになった
旅館の建物と離れが
私の部屋は
学校指定のジャージ姿の先輩は、部屋に入るなり右奥に置いてある、私のベッドにうつ伏せに寝っ転がって布団を掛けた。
「ふへー」
「勝手に使わないで下さい」
「すやー」
「起きて下さい」
私は淡々とそう言って、布団を容赦なく引っぺがした。
「あー……」
もの悲しそうな顔の先輩をスルーして、私がベッドの下の方に座ると、
「えへへ」
身体を起こした先輩は、
「ちょ、先輩」
先輩はそのまま私に寄りかかってきて、私は仰向(あおむ》けに押し倒される格好になった。
「んー……。楓さんの匂いだ……」
私の胸に顔を埋める先輩は、深呼吸をしながら怪しくつぶやく。
「先輩、誰か来たらどうするんですか?」
「大丈夫ー。だって、そうならないためにここに――」
「楓ー。あなたのお友達のご飯どうするのー?」
油断しきっていた先輩は、下から聞こえてきた、私の母の声に驚いて跳ね起きた。
「あわわ……」
母が階段を上がってくる音がして、先輩は慌ててモジャモジャの頭を整えだした。
「私が持って行くから大丈夫ー」
私が部屋のふすまを開けてそう答えると、母は、りょうかーい、と返事して引き返していった。ちなみに、父は海外出張に出てて留守にしている。
「ほふう……」
しばらくして、安心した様にため息を吐いた先輩は、ベッドに戻っていた私の方へやってきて、私の膝の上に頭を乗せた。
私は下がショートパンツなので、先輩の体温が直に
「あのー、先輩……」
「ご飯のときに起こしてー……」
それだけ言って寝息を立て始めた先輩は、どれだけ揺すっても起きる気配がなかった。
全然懲りてないじゃないですか……。
「せんぱーい」
「すぴー……」
脚がしびれてきたから、先輩をどけようとしたけど、腰にがっちりとしがみつかれていて出来なかった。
「まったくもう……」
諦めてため息を吐いた私は、先輩の顔にかかった前髪を指でどかした。
「んふ……」
幸せそうな顔でリラックスしている先輩の頭を、私はなんとなくそっと撫でる。
やっぱり、疲れたのかな……?
ただでさえ、慣れない場所で慣れない事をして、休みの日なのに気が休まらないんじゃ――。
「すべすべ……、ふともも……」
無理も無いよね、と思った私の太股に、寝言でそう言いながら先輩が頬ずりしてきた。
「……」
だらしないニヤケ顔をしている、先輩の腕を引っぺがした私は、先輩を起こさないように上の方にずれた。
頭がマットレスに落ちて、ぬわーん……、と
そんな先輩の身体に布団を掛けて、部屋の電気を小さい方にしてから、私は母と祖母の手伝いに行った。
「ふえぇ……、楓さーん……」
それが終わって、2人分の晩ご飯を持って部屋に帰ると、先輩は情けない顔と声で私を出迎えた。
「ご飯持ってきましたよ」
私はとりあえず先輩に謝って、部屋の真ん中にあるちゃぶ台に2膳分置いた。
私が帰ってきた事が嬉しかったみたいで、板前さんが張り切って、ものすごく手の込んだものをわざわざ作ってくれた。
「むーん……」
電気を点けると、先輩はふくれっ面で抗議の目を向けてくる。
「あれ? 要らなかったんですか?」
「食べるー」
いじけた顔でそう答えた先輩は、ベッドから降りて私の向かいに座った。
そんな先輩だったけど、
「うまーい」
近所の漁港で
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