第2話
「……もしかしてあなたって、
洗濯物が散らかるベッドに座った先輩が、私に話しかけてくる。散らかっていた本達は、あらかた片付け終えた。
「はい、そうです」
今日からお世話になります、と、私がお世話する事になりそうな先輩にお辞儀をした。
「……ところで先輩、何で半裸なんですか?」
すっかり緊張感が抜けきっている彼女に、ずっと気になっていた事を訊いてみる。
「いやー、制服吊るしたら力尽きちゃって」
あははははー、と脱力感満載の笑いを浮かべて、先輩はそう答えた。
段ボールと本の間を縫って進み、窓の右サイドのタンスの前にたどり着いたけど、中身は冬物の服だった。
「とりあえずこれ着てください」
仕方がないのでそう言った私は、持ってきた荷物に入っているワイシャツを先輩に渡した。
「どうも」
それを羽織った先輩は、ゆるゆるとした動きでボタンを留める。
「それにしても、よく今までバレずに来られましたね」
次に私は、床に散らばる洗濯物を一カ所にかき集める。ほんのちょっとの時間で、すでに二十センチぐらいの山が出来上がっていた。
本棚に入りきらなかった大量の本を、五十音順に整理して詰めた段ボールが、部屋の隅に固めておいてある。
「部屋に呼ぶほど仲のいい子いないからさー」
「……そんなでも生徒会長になれるんですね」
「本当にねー」
ベッドの上で寝転がる先輩は、外面だけはよくしてるからかな? と言って苦笑いした。
鰹節みたいな色と形の抱き枕を抱きしめる彼女は、どことなくだらけている猫っぽい。
……まあ、これはこれでごく一部に人気は出そうだけど。
「どうなんですかねー」
そんな感じでなんだかんだ話してる内に、散乱していた洗濯物もほぼ片付いて、残りは先輩のベッドの上のものだけになった。
「先輩、ちょっとそこどいてください」
「んんー」
間延びした返事をする先輩は、本当にちょっとだけ下側に動いた。
「そうじゃなくて、ベッドから降りてください」
「おろして?」
男子には大受けしそうな笑顔で、そんなことを言う先輩を、
「あー」
私は薄汚れているシーツを引っぺがして、洗濯物の山に転げ落とす。
「下ろしましたよ?」
「ううー、もっと優しくして……」
シュンとした様子の先輩は、部屋の真ん中に敷いてあるカーペットまで、床を這って移動した。
「まだ洗濯物ありますか?」
とりあえず、見えている範囲の物はすべて集め尽くしたはず。
「あるあるー」
そう答えた先輩は何を思ったか、自分の穿いている下着を脱ごうとし始める。
「……それは後でもいいです」
「あ、そう?」
いくら何でも、警戒心なさ過ぎじゃないですか、先輩……。
「半脱ぎはやめてください」
「穿かせて?」
「……」
もうツッコむのを放棄した私は、先輩に洗濯カゴの所在を訊ね、それを脱衣所へ取りに向かった。
こんな具合で私の転校初日の夜は、掃除と片付けに費やされてしまった。
*
「先輩、いい加減どいてください」
いくら体重が軽いとはいえ、流石に限界が来た私は、先輩を少し乱暴に揺さぶった。
「ぬーん」
少しして目を覚ました彼女は、ナマケモノレベルの遅さで私の上からどく。
「……先輩、手を離してください」
やっと起き上がれると思った矢先、今度は腰の辺りにしがみつかれた。
「やー」
力任せに腕を剥がそうとしたが、先輩はだだっ子のように全力で拒否する。
「晩ご飯食べなくていいんですかー?」
「……やー」
直後、先輩のお腹が高らかに鳴って、彼女は私を渋々解放した。
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