第39話
「楓さーん……。冷蔵庫何もないよぅ……」
「買い物出てないですもんね……」
だらだらとテレビを見ていると、お腹減った、とポツリとつぶやいた先輩が、
年末にある程度買い込んでいたのと、おせちのおかげで寝正月しても5日までもったけど、
「楓さん、買ってきてー」
ごろん、と仰向けになった先輩は、一緒に冷蔵庫をのぞき込んでいた私を見上げて、おやつをもらえるのを期待している猫みたいな目でお願いしてきた。
「たまには先輩が行ってくださいよ」
「えー、私何買って良いか分かんないよ?」
「メモ見ればいいじゃないですか」
私はさっき先輩が寝てる間に、レシートの裏に書い冷蔵庫に貼っておいた、買い物メモを先輩に見せる。
「じゃ、じゃあ! 平等にじゃんけんで決めようよ!」
「良いですよ。こういう場合、大体言い出しっぺが負けますけど」
「じ、ジンクスは打ち破るものだから!」
上半身をガバッと起こした先輩は目を泳がせながら、ケンカする前みたいな手の動きをする。
じゃんけんぽん、で私はパーを、先輩はグーを出して、あえなくジンクス通りになった。
「あっ」
「お願いしますね先輩」
プルプルと震わせている、そのグーをじっと見る先輩に、私はスッとメモを差し出す。
「さ、3回勝負! 3回勝負にしよ!」
「いいですけど、だいたいそう言うと勝てないですよ」
「今度こそジンクスを打ち破るもん!」
往生際の悪い先輩は、そう言って不敵な笑みを浮かべて振りかぶるけど、やっぱり目が泳ぎまくっていた。
で、その結果はというと、
「ス……、ストレート……」
まあ案の定というか、あっさり私が3連勝して終わった。
また、ころん、と床に寝転んだ先輩は、うおおお……、と床に落ちてる猫みたいな格好で
「じゃあ今度こそお願いしますね」
「ふぁい……」
やっと観念した先輩は、来たときと同じ動きで居間に戻っていって、ベッドの足元にある
「あ、先輩。お店の場所分かります?」
心底面倒くさそうに着替える先輩へ、私はこたつに入りながら一応それを
「わっかーるよー?」
あっ、これ分かってないな。
「校門から出て真っ直ぐ降りて、突き当たりを右ですよ」
どう考えても怪しい言い方だったから、そう教えておいた。
「ねえ楓さん、どうせだし一緒に行こうよー……」
「じゃんけんした意味ないじゃないですか」
甘えた声を出してくる先輩だけど、半分ぐらい道連れにする気だ、というのがみえみえだった。
「私がなんか買ってあげるからー」
「物でつるんですか……」
「高いアイス1個でどう?」
「分かりました。手を打ちましょう」
「わーい」
つくづく甘いなあ、私、と思いながらも、先輩との交渉を成立させた。
私も適当に外出用の格好に着替えて、さあ出かけよう、というタイミングで、携帯にお母さんからメッセージが入った。
ん? なんだろ。
ロックを解除して見てみると、
「……えっ?」
お
「んー? ――どうしたの?」
ほわっと訊いてきた先輩は、私の顔を見て緊急事態だと察したらしい。
で、慌てて実家に駆けつけてみると、過労だっただけで、もうお婆ちゃんは元気な様子だった。
「あっはっは! 紅葉が慌てすぎなのよ!」
栄養ドリンクをお酒みたいにグイッと飲んで、集まれた私を含めた身内5人へ、お婆ちゃんは豪快に笑ってそう言い放った。
ちなみに、紅葉、というのは私のお母さんの名前だ。
「当たり前でしょうが! 母さんもう70過ぎてるんだから!」
「そんなにしょぼくれちゃいないよ。失礼な子だね!」
「まあまあ、お袋も姉さんも落ち着いて」
「そうですよ。休めば大丈夫な程度なんですから」
親子
どうも、私の出る幕は全然なさそうだね……。
わーわー元気に言い合ってるのを見て、そう感じた私はお婆ちゃんの部屋から、静かに廊下へ出た。
住宅側の玄関で、先輩へ特に大事じゃなかったことを電話すると、
『ほー、ほれは良はったねえ』
「はい。……ところで先輩、何か食べてます?」
『うん。
「それで夜ぐらいまで持ちます? ちょっと手伝いとかしたいんで、遅くなりますけど」
『持たないと思うけど、まあ買い物ついでになんか買うよ』
「そうですか」
どうにも脱力感満載だけど、聴いた感じだと安心した様子だった。
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