第22話

                    *


 5位から4人をごぼう抜きする先輩の大活躍もあって、2年生も1着でゴールしたので、後は3年生が3着以上で優勝決定、という展開になった。


 その後の3年生は、バトンを落とすミスをしたけど、それを巻き返して2着でゴールして、割とあっさり赤組の総合優勝が決まった。


 赤組優勝、とアナウンスされた瞬間、グラウンドの赤組全員が大歓声を上げて、抱き合ったりハイタッチしたり、1カ所に集まって空を指さしながら跳ねたりしていた。


 表彰式と閉会式と後片づけが終わって数時間後。


「……なんか青春、って感じですね」

「ふふっ。そうだねえ」


 日が暮れると同時に、グラウンドの真ん中で組まれていた、キャンプファイヤー用の薪に火が付けられ、それを囲んでの後夜祭が始まった。


「やー、終わってみれば、あれだけ思い悩む必要無かったね」

「そうですね」


 花火とかおしゃべりとか踊ったりして、楽しそうにはしゃぐ他の生徒達を見ながら、隣の先輩が私にそう言ってきた。


 私と先輩がいるのは、グラウンドへと降りる階段の1番上で、周りには私達以外は誰も居ない。


「心配しすぎなんですよ。先輩は」

「あはは……」


 勝手に追い詰められて、あわあわしていた自分を思い出しているのか、先輩は少し恥ずかしそうに苦笑いしていた。


「まあ、良かったですね。なんとか1位とれて」

「本当にね……。色々助けてくれてありがとう、楓さん」


 あなたが居ないとどうなっていたか……、と先輩は自分の膝を抱きながら言う。


「先輩が全力を尽くしたからですよ。私は精々指で押すぐらいしかしてません」


 私はそんな妙に小さく見える先輩にハグして、できるだけ優しい声でそう言った。


 少し驚いた様にビクッとした先輩は、私の言葉を聞いて、……ありがと、と照れと嬉しさが混じったみたいな声で言った。


 腕を解いた私は、さっき自販機で買った、脇に置いてあったスポーツドリンクを飲んで、またグラウンドの様子を眺める。


「そろそろ寮に帰ります?」

「そうだね」


 先輩をちらっと見ながらそう言って、2人でほぼ同時に立ち上がったところで、


「吉野。ちょっといいか?」


 先輩のクラス担任の先生が、後ろから先輩へそう呼びかけた。


「あ、はい」


 そう返事した先輩は、ごめん、先に帰ってて、と私へ言うと、先生と一緒に職員玄関の方へ歩いて行った。


 なんだろ……?


 2人が角を曲がって見えなくなるまで見ていると、階段を上がってきた坂田さんに声をかけられた。


「高木さんどうしたのー? こんな所で突っ立ってさ」

「ああうん、吉野先輩とさっきまでしゃべってて――」


 そのまましばらく、彼女と他愛たあいない話をして別れた後、私は寮へと行く渡り廊下を歩いていていた。


 あっ、弁当箱。


 後ろから追い抜いていった生徒が持っていた保冷バックを見て、生徒会室に弁当箱を置き忘れていた事を思い出した。


 私は急ぎ足で来た道を引き返して、管理棟1階の職員室で鍵を借りると、隣の特別教室の最上階にある生徒会室へと向かった。


 先輩の弁当箱もついでに回収して、さっさと鍵を返すために管理棟へ降りた。

 すると、廊下の突き当たりの右手にある小会議室から、先輩と先生と50代ぐらいの男の人が出てきた。


 その人は、先生の態度的に先輩の父親だろう。先輩の顔は、うつむいているせいでよく見えなかった。


 なんとなく、見付かったら気まずそう、と感じた私は、とっさに引き返して階段下にある印刷室に隠れた。


 3人分の足音が私のすぐ近くまで来たところで、足音が1人分になって引き戸を開ける音がした。多分、先生が職員室に入ったんだろう。


「今回の休み開けテストは大目に見てやるが、もう一度10位を割ったら……、分かるよな? 響」


 その数秒後、あの先輩の父親らしきおじさんが、あまり大きくはないけど、凄く高圧的で厳しそうな声で先輩にそう告げた。


「はい、お父様」


 返事をした先輩の声は、私へでも外向けでもない、ひどく抑揚の弱くて暗いものだった。


 ……娘に、そんな言い方しなくても。


 と、私は今すぐにでもここから出て、先輩の父親にそう言いそうになったけど、それはまた、他人の事情に踏み込むことなので止めた。


 私は大人しく、誰も居なくなるまで待ってから、先生に鍵を返して足早に寮へ帰る。


 ドアを開けて、先輩の様子がおかしかったらどうしようか、と少し心配だったけど、


「楓さんお帰りー。遅かったけど、なんか用事でも頼まれたのー?」


 床に引っくり返りつつそう訊いてくる先輩は、いつも通りの調子と表情をしていた。


「ああはい。弁当箱を取りに行ってたんですよ」


 内心ホッとした私は、先輩に2人分の保冷バックを見せながらそう言った。


「わー、ありがとう楓さーん」


 すると、ゆっくりと起き上がった先輩は、えへえへ笑いながら私に抱きついてきた。


「ところで今晩のご飯なにー?」

「2言目にはそれですか……」


 また昼みたいにキスしてくるかも、と身構えたけど、先輩は私を放してそう訊ねてきた。


「疲れたんで、今日は冷蔵のピザを焼こうと思うんですが」

「良いよー。楓さん頑張ったんだから、手抜きでオッケーオッケー」


 ピザと聞いてやたら上機嫌になった先輩は、朗らかにそう私をいたわってきた。


「じゃあ手抜きついでに、今日は徹底的に身体に悪い晩ご飯でもいいですか?」


 私は少し悪そうな笑みを浮かべつつ、冷蔵庫からピザの袋と2リットルのコーラを出した。次に、冷凍庫からフライドポテト用に細切りになった、冷凍ジャガイモを取り出した。


「おおう、いいね!」


 それを見た先輩は、うえっへっへ、とノリノリで悪役っぽい声を出した。


 ……で、ウキウキでそれらを食べたまでは良かったんだけど、


「ぬわー……。食べ過ぎたー……」

「ポテトって、結構胃に溜まるんですね……」


 ポテトを調子に乗って1袋全部揚げて全部食べたせいで、2人ともグロッキー状態で床に転がるハメになった。

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