第34話
*
で、問題の選挙結果はと言うと。
「はい、響も高木ちゃんもお疲れさまー」
「お疲れさま」
「お疲れさまでした」
95%と恐ろしいほどの得票率で先輩が無事に当選した。
ちなみに、この数字は歴代最高の得票率だったらしい。
私達はそれを祝して、家庭科準備室で祝勝会をやっていた。
と言っても、ポテトチップスと2リットルのジュースっていう、学生のパーティーそのものなんだけど。
「じゃあ後は、役員の人選するだけだね」
先輩のコップにジュースを注ぎながら、福嶋先輩は楽しそうにそう訊ねる。
「ふっふっふ。実はもう考えてあるんだよね。これが」
先輩は足元に置いてある
「お、さっすがー。どれどれ?」
私と
もちろん会長は先輩、副会長は前期の会計の2年女子、会計が私、書記が
「なかなか手堅い感じだね」
感心している福嶋先輩は、うんうん、と首を縦に振ってそう言う。
ちなみに、坂田さんは部活動委員会役員で書記をやっているから、という基準で選んだらしい。
……まあ、先輩の事だし、私と仲の良い人だから、っていうのがメインだろうけど。
それはそれとして、
「あの、先輩。嫌って訳じゃ無いんですが、私が会計で良いんですか?」
前期に何回も先輩に尻拭いさせてしまいましたし、と、また迷惑をかけたくないからそう訊いた。
「大丈夫。高木さんは、数字の方が得意そうだから会計に選んだんだよ。ほら、普段食費の管理やって貰ってるし」
「自信持って高木ちゃん。響の人を見る目は間違いないから」
「ありがとうございます」
先輩が私を選んだ理由に、福嶋先輩がそう援護射撃してくれて、不安な気持ちが大分薄れた。
期待されるのって、やっぱり重たいなあ……。
先輩の比じゃ無いんだろうけど、プレッシャー、というものの重たさを私は感じていた。
体育祭とかの思い出話に花が咲いて、気がついたら5時になっていて、祝勝会はお開きになった。
「じゃ、2人ともお願いね」
「りょーかい」
「はい」
その後は、私と福嶋先輩は長机の返却、先輩は部屋の掃除に役割分担して、事務所の片づけに入った。
私が机の前を、福嶋先輩が後ろを持って、えっちらおっちら、と階段を下りて管理棟へ繋がる廊下を進む。
「ねえ高木ちゃん。私が卒業した後も、あの子の事頼んで良い?」
「はい? ……頼む、とは?」
福嶋先輩は、先輩の事をやっぱり何か知ってるのかな、と思ったけど、それを態度に出さずに私はそう聞き返す。
「いや、単純によく見てて欲しい、ってだけだよ」
「まあ、良いですよ。そのくらいなら」
私の返答に、ありがとう、と言った福嶋先輩は、
「そうか、君にも何も話して無い、か……」
少し憂いというか、そういうものが混じった声でそう続けた。
「はい?」
「ああいや、こっちの話」
聞こえなかったフリをして振り返ると、彼女は声通りの表情から無理やり笑みを作った。
「ま、よろしく頼むね」
「はい」
そんな福嶋先輩はそう言うと、それ以上は自分から何も話さなくなった。
多分この感じだと、先輩の家の都合は何か知っているけど、私と一緒で実態までは知らない、って感じだと思う。
そう都合良くは行かない、か……。
先輩に訊かずに、先輩の事を知ることが出来る、と思ったけど、先輩に深く関わるなら直接向き合わないといけないらしい。
「ところで、なんで私なんです?」
「ん。まあ単純に、かなり警戒心強い響が、大層きみを気に入ってるから、だね」
そう言った福嶋先輩の顔を横目で見ると、妙に大人びた様子で目を細めていた。男子なら、これを見たらときめいてしまうかも知れない、と私は感じた。
後片付けが終わって、寮の階段で福嶋先輩と別れ、先輩と私は自分の部屋に帰った。
「あー……。当選して良かったー……」
帰るなり先輩は私に抱きついて、ぐでっと情けない声を上げた。
「お疲れさまです」
「お疲れたー……」
「本当、あんなに心配する必要無かったですね」
「だね……」
ふぇえ……、みたいな、気の抜けた声を出している先輩を、私はその背中を撫でながら存分に甘えさせてあげる。
「前期はごめんねー……。空いた枠に無理やりねじ込んで……」
「……今、それ言います?」
「本当申し訳ない……」
いかにもしょぼん、とした声色で、先輩は私の肩に額を押しつけながら唐突に謝った。
「……別に謝らなくていいですよ。本当に嫌なら断りますし」
まあ、引き受けたときは新しい事に挑戦したい、と思っていたからちょうど良かった、っていうのはあったし。
それを先輩に伝えると、
「わーお……、向上心の塊だ……」
ペタンと座り込んで、なんかよく分からないけど、もの凄い尊敬の
「あ、ありがとうございます……」
実際のところはそんなにでもないから、私はなんか騙してるみたいで、もの凄くいたたまれなくなった。
「あっ」
そう思ったと同時に、先輩のお腹が思い切り鳴った。即座に、恥ずかしそうな様子でその顔を赤くする。
「ご飯、作りますね」
「う、うん……」
「で、予定としては鶏つみれ鍋なんですけど、どうですか?」
「文句なーし」
運良く話題が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます