マザーの神話

ハムザとアマザ

遥か昔、この世界には生き物は存在しませんでした。


気の遠くなるような悠久の長い年月がながれたある時、

天上にある池にマザー様が現れました。

マザー様はそこにたった一つだけ、私達のご先祖様ハムザを作りました。

ハムザは自らの分身を作る能力を持っていました。

ハムザは、過酷な自然環境の中で有利に生き延びる為に

自分の分身を沢山作りました。


しかし、作った分身達はどれも長くは生きられ無かったのです。

それは、この頃のハムザの住む場所の環境が大変過酷なものだったからです。

天上の池は、度重なる灼熱の熱波に襲われ、

その度に池の水が蒸発し、完全に乾上がったのです。

この時に、ハムザの分身達はまとめて死んでしまったのです。

しかし、このハムザの分身の中でハムザ以外に生き残った分身が一つありました。

その分身は「アマザ」といい、ハムザの分身達から仲間外れにされていました。

アマザは他のハムザの分身達とはいろいろな特徴が違っていました。

アマザはハムザの分身の突然変異体だったのです。


ある年に、この世界のほとんどの場所が灼熱の熱波に襲われるという大事件が起こりました。

 そして、まるで逃げ場を塞ぐかのように、ハムザ達のすみかにも灼熱の熱波が近づいてきたのです。

 命の危機にも関わらず、ハムザの分身達は誰一人、今まで暮らしてきた場所にとどまり続けるマザー様の側を離れようとはしませんでした。

 マザー様がとどまり続けるのは、その地を離れては絶対に生きられなかったからです。

 ハムザの分身達には、マザー様の声を聞くことが出来ず、

マザー様のそばにいれば守ってもらえると信じていたのです。


しかし、アマザだけは意見が違っていました。

アマザは、ハムザやハムザの分身達に、

みんなで地下に逃げるよう説得しましたが、誰もアマザの言うことを聞き入れませんでした。

もちろん、ハムザ自身も最初はアマザの言うことを信じようとしませんでした。


しかし、

ハムザはアマザの目の前でああは言いつつも、

本音ではアマザが言っていたことが気になっていたのでした……。


その日の夜、

ハムザは

アマザがみんなを必死に説得する夢

をみました。


そしてその夢の中で

温かくて優しくそして懐かしい

聖母のような……

聞き覚えのある声がしたのです。


◇ハムザ、

わたしの声が聞こえていますか?◇


「マ、マザー様?」


◇アマザの言ってることは本当です。

手遅れになる前に、早くみんなで地下に逃げてください◇


「俺もアマザの言ってること気になります。

みんなで逃げたいです。

でも、俺もマザー様のいるこの住処から離れたくないんですよ」


◇なぜですか?◇


「この場所はちょうどい暖かさだし、

迷子になることもない。

これから灼熱地獄が襲いかかってきても、

きっとマザー様の加護で守られるって俺の分身達は信じてるんだと思います。

 でも、もっと大きな理由があるから、マザー様直々に逃げなきゃ助からないって言われたとしても、俺達は離れられないんです」


◇その大きな理由とはなんですか?◇


「マザー様一人を置いてなんていけないんです!

マザー様の命を犠牲にしたく無いんです」


◇わたしは大丈夫です◇


「マザー様の命を犠牲にして僕達だけ生き残っても、

そんなの絶対に嬉しくないです!」


◇では、ハムザ。あなたは、ここに残ってわたしと一緒に

命を終えると言うことですか?◇


「…………」

ハムザは一瞬言葉に詰まりました。


『違います!』

そう勢いよくはっきりと断言した声は、

ハムザのものでも

マザー様のものでもありませんでした。


「アマザ……、どうして?」


——————————————————————

↑【登場人物】

•ハムザ

•アマザ

•マザー様

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る