広大な洞窟の中に、大きな御神木と並んで静かに佇む古びたやしろがある。天井の隙間から差し込む光が社を優しく照らし、その光景はとても心地よい。


「小僧、一人で来たのか?」

少年は、神妙な面持ちで神棚に手を合わせた後、蓮姫に声をかけられた。

「うん。僕一人だよ」

少し緊張した様子の少年。

蓮姫は、少年の小さな肩に手を置き、優しく微笑んだ。

「ああ、そうか? でもなあ、この社は、お前のような子供が遊びに来ても楽しいところじゃないぞ?」


そんな蓮姫の言葉に、少年は少し不安げな表情を見せる。

「ちがうよ。僕ねえ、お祈りに来たの」

少年は、澄んだ瞳で蓮姫を見上げた。


「お祈り? 何か欲しいものでもあるのか?」

蓮姫は、少年の純粋な心に触れ、思わず問いかけた。


「ん~ん、僕はお星さまが見たいな」

少年は、小さな声で言った。


「お星さま? 見たけりゃいつでも見れるじゃないか!」

蓮姫は、少年の言葉に少し戸惑いながらも、明るい表情で答えた。


「星は見れんぞ!」

すると突然、蓮姫とは異なる、荒々しい声が響き渡る。

少年は、その声に驚き、顔を上げた。

「へ…………?」


少年の視線の先には、ハムザと呼ばれる男が立っていた。

蓮姫と少年の会話を横で聞いていたハムザが途中から会話に入ってきたのだった。

ハムザは、少年の純粋な願いに心を打たれつつも、残酷な現実を告げようとしていた。

「アマザお前な~、相手がまだ幼い子供だからって、あること無い事吹き込むなよ!」

ハムザは、アマザをたしなめた。


「星が見れないってどういう事だぁ!? なあおい! ハムザ!?」

蓮姫は、ハムザの言葉に理解できずに、大きな眼力で問い返した。


「アマザ、お前雰囲気変わったな~。図々しくなった。熱でもあるんじゃないか? 大丈夫かよ?」

ハムザは、アマザの様子がいつもと違うことに気づき、冗談めかして尋ねた。


「私は変わらん! ちゃんと教えろよ!」


「わかったよ」

そう言って、ハムザは蓮姫の疑問に答えるため、過去の出来事の一部始終を語った。


「なるほど、つまりはこういうことか?

お前ら、いいや、私らは元々上の世界『海の中』に住んでいた。

そこに、大きな災害によって海を蒸発させる灼熱の熱波が襲ってきた。

それで、水無しでは生きられない私らは故郷の海を捨て、地下で暮らすようになったと……。

つまりはそういうことだな?」

アマザは、複雑な表情でハムザに確認した。


「そうだ。それに……、少年の父親は災害救助の役目を率先して引き受けてくれてな、あいつのおかげで、犠牲者は他に一人もでなかったんだ。ただ一人……あいつ自身を除いてな」

そんなハムザの言葉に、横で聞いていた少年は静かに涙を流した。


「そうだったのか……」

蓮姫は、この世界の悲劇を知り、深い悲しみを感じていた。



翌日、少年は再び社を訪れた。

「こんにちは~!」

少年は、昨日とは様子が変わり、大人びた表情で蓮姫に声をかけた。


「おい! お前!その顔! 体! 一体どうしたんだ!?」

蓮姫は、少年の変化に驚き、駆け寄った。




——————————————————————

↑【登場人物】

•アマザ(蓮姫)

•少年

•ハムザ「お前一人で来たのか? お母さんは?」




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