咎を背負う人ならざる少女

「ハルキ? しっかりしろ?

ハルキ?」


「う、う~ん。

え? もう朝?」


「おお、ハルキ!

よかった。

意識を取り戻したのか!」


「え?

ここはどこ?

アタシがいつも寝てる場所ちゃうよ?」


「ハルキ?

お前本当に覚えて無いんだな?」


ハルキにはアノマロカリプスとの勝負の記憶はなく、

蓮姫にとって見覚えのある

天真爛漫なお気楽天然娘に戻ってしまっていた。


「ハルキ、お前……」


「カムっち、し~!」


「突然どうした、ハルキ?」


「誰かがアタシに助けを呼んでるの!」


「助け?

ハルキ? お前今目の焦点が合っていないぞ!

大丈夫か?」


「…………」


ハルキは蓮姫の問いには応えず、

まるで吸い込まれるように横たわったアノマロカリプスに近づくと、全身で抱きついた。

すると、驚いたことに アノマロカリプスの体の中から自分の声にそっくりな少女の声が聴こえてきた。


◇あなたが近づくと温かい……。

あたしはデルタ。ねえ、あなたは誰?◇


(アタシはハルキ。

ここ、温か~い。そして、とっても黄色くて明るいところだね。

ねえ、どうしてあなたはここで閉じ込もっているの?

確かに明るくて温かい場所だけど

ずっといたら寂しくならない?)


◇寂しいわ。

あたしは、絶望し、長い長い年月の中で

大切な友達とその思い出を失ってしまったの。

この闘い、あんた達の勝ちだわ。

さあ、早くあたしを楽にして……◇


(嫌だ!

あんたは大切な記憶、思い出したいんじゃないの!?)


◇ええ! もちろん思い出したいわ!

でもね、あたしが生きていることが、

あたしの体に共存する大切な親友二人の魂を縛っているの◇


(どういうこと?)


◇あたしは自分が選んだ孤独な運命に

大切な二人の一生を

巻き込んで、死なせてしまったのよ◇


(死なせた?)


◇そう!

あたしが全ていけないの!

シクシク……◇


(泣かないで、デルタちゃん。

とっても辛かったんだね。その罪の意識をたった一人で背負って今まで我慢して来たんだね)



◇そう、辛いわ!

あたし何回も死のうと考えたわ。

だけど夢に出るの◇


(夢?)


◇夢の中でね、あたしは幾度となく人生という孤独で長いマラソンを走っているんだけど、

途中で諦めようと足を後ろを振り返るの。

不思議なことにその夢ではあたし以外の人の声だけが聞こえないの。

そしてね、あたしの後ろには道は無く、大好きだった死んだおじいちゃんが笑顔であたしに手を振ってくれているの。

それだけじゃないの。小学校の低学年の時に交通事故で亡くなった仲のよかった友達がお母さんになって笑顔で子供を抱いていたわ。

だけどね、あたしが振り返った先のおじいちゃんやお母さんになったその亡くなった友達のところに

行こうとすると二人とも揃って笑顔のまま顔をゆっくり横に振るの 。

『え? どういうこと?』

二人は黙ったままあたしの方を指さして……。

『え? あたし?』


『デルター!』』

『お姉ちゃーん!』

『デルタさーん!』

『デルタちゃーん!』


『み、みんな!』

あたしはみんなの声に気付いてすぐに前へ振り向き直したわ。

パパとママ、弟のナブラやその友達のラプラシアン、そして女友達で親友のハモニア。

みんなは少し先からあたしが追いつくのを待っててくれて、声は聞こえないけど確かに応援しようとしてくれるの◇


(デルタちゃん? その夢はきっと!)


◇ええ、あたしにもわかったわ◇


(みんな、デルタちゃんに生きて幸せになって欲しいって思っているんだよ。

でも、辛いこと聞いてごめんね。

デルタちゃんはどうして二人を死なせたって思うの?)


◇そのあたしが死なせた二人は弟のナブラとナブラの同い年の親友の男の子ラプラシアンって言うんだけど、 あたしは親しくていつも行動を共にしていたその二人にある日を境に黙ったまま二人の前から姿を消したの◇


(姿を消したの? どうして?)


◇それは……、不治の病で余命宣告された弟ナブラを助ける為の交換条件だったの。

弟の病気を治す代わりに人間の真似を辞めて人間が生まれるより遥か大昔の時の番人として永遠に生きるということ、その条件をあたしは◇


(そっか。人間の真似をやめてデルタちゃんは今の巨大な昆虫みたいな姿になったの……?)


◇そうよ。

この時代の食物連鎖の覇者で化け物のアノマロカリプスにね。

そして、会話する人間やコミュニケーションがとれる動物が全くいない環境で100万年以上の長く悠久の年月の中、あたしの理性は過去の大切な記憶と一緒に失われていったわ。

そしてあたしの理性が完全に無くなっただいぶん後になってナブラとラプラシアンがあたしを助けに来てくれたの◇






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る