デルタ探し

「ナブラ、退院おめでとう」


「ありがとう……ラプラシアン」


「ん?

なあ、ナブラ?」


「なに?」


「ナブラ?

君は退院できたのが嬉しく無いのか?

ボクには君が嬉しそうにみえないんだけど、

一体どうしたんだ?」


「参ったな。

ラプラシアンは本当になんでもお見通しだね。

そうそう。実はね、最近お姉ちゃんがお見舞いに来なくなったから心配してたんだけどさ、今日パパから電話があって、お姉ちゃんが三日前からずっと家に帰って来ていないことを聞かされたんだ」


「非行とは無縁なしっかりした君のお姉さんが?」


「しっかりしているかは疑問だけど、確かに僕のお姉ちゃんは家でいつもパパと一緒に家事をやってるから信じられないよ」


「ナブラ、ボクも君のお姉さんを探すの一緒に手伝うよ!」


「ありがとう、ラプラシアン!」


「それで、ナブラはお姉さんの居場所にどこか心当たりはあるのかい?」


「すぐに考えつきそうな場所はパパとママが探してくれてみつからなかったから、

僕はてっきりラプラシアンやハモニアさんのところかと思って今から行こうとしていたんだ」


「そうだったのか」


「それ以外には君に心当たりはないの?」


「実はね、人を疑うみたいで気が引けるんだけど、

僕は僕の主治医の先生が怪しいと思うんだ……」


「主治医の先生が?

どうしてだい?」


「主治医の先生は、最初僕の病気は治らないって言っていたんだよ。

だけどね、血縁の姉から臓器を一部移植させれば完治させることができるかもって言っていたんだ……」


「そうなのか!

臓器を移植したらデルタさん自体は無事なのか?」


「先生が言うには、お姉ちゃん自体の命には問題は無いらしいんだ。むしろ、寿命は伸びるらしい。

だけど……」


「だけど……?」


「お姉ちゃんがいつ退院出来るかは約束出来ないらしいんだ。

主治医の先生怪しいと思わない?」


「確かに怪しいよな。

よし! 二人で跡をつけるか?」


「うん!

でも、どうやって?

僕は主治医の先生の連絡先や家の住所なんて知らないよ」


「君は今日退院したばかりなんだろ?

病院の受付で主治医の先生に連絡をとってもらうんだよ」


「そうだね。よし行こう!」


ナブラはラプラシアンと一緒に退院したばかりの病院に戻ると、その足でまっすぐに受付へと行った。

ラプラシアンが受付係の人に事実を説明してくれている間、ナブラは他の病院のスタッフに主治医の先生に連絡先を探してもらっていた。


「ナブラくん、お待たせしました」


「主治医の先生の連絡先わかりました!?」

ナブラとラプラシアンの質問の声は見事に重なった。


「それが……、実はね、そんな名前の先生、

この病院には今も、そして昔も来てもらってはいないの。

ナブラくん?

その名前で、本当に間違いはないかなー?」

小学生のナブラに申し訳無さそうにそう説明する受付の女性。


「時間をとってすみません、大丈夫……です」


「お姉さん達はこういうのも仕事だからいいのよー。力になれなくてごめんね」


「ナ、ナブラ……」


「どうしよう、ラプラシアン!

手掛かり無くなっちゃったよ」


「なあ、ナブラ?

その主治医が診察した部屋、行ってみないか?」


「え? 行くって、どうやって?

忍び込むの?」


「君があの部屋でサイフを無くしたから探したいって言ってみなよ!」


「あっ、そっか!」

ナブラとラプラシアンは受付でそう頼んでみたが、

診察目的以外での入室は認めてもらえなかった。


「よし、ナブラ!

じゃあ作戦Bだ」


「忍び込むんだね?」


「ああ、不本意だけどね。

ただ、人目につく今の時間はまずいんだ。

今日の夜中0時に病院外の外来駐車場に集合で大丈夫かい?」

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