ハルキの条件

「あいたた~」

眩しい光も次第に治まり、

水底の岩でしりもちをついた蓮姫は辺りを見回した。


「ここは……、水中か。

確かハルキと別れた場所だな。

そう言えばここは、

ブラフトじじいの住む人里離れた洞窟の一番奥だったな。

そうだ、先ずはハルキを探さないとだな」


そう言って蓮姫はその場を立ち上がり叫んだ。


「お~い、ハルキー!

何処だ~!」


◇ここだよ……◇


「何!?

どっちだ?」


蓮姫は辺りを見回したがハルキの姿は無かった。


「さっきから見回してるが

何処にもいないじゃ無いか!」


◇いるよ……◇


「そっか……わかった。

私はわかったぞ。

ハルキ、お前は天敵に食われて

幽霊になったんだな。

お前はバカだから風邪どころか

病気や事故とも無縁だろうし、

食ったらバカが移りそうだから

天敵に喰われる心配も無いと思っていたが

意外にやるじゃないか」


◇コラー!

あたしを勝手に殺すなし~!

少しは心配しろ~!◇


「わ!!

幽霊が怒った!」


◇カムっち、驚きすぎ~!◇

それに、あたしは生きてるし。

さっき勝手に殺すなって言ったばかりだし!

もう!◇


「わりぃ~わりぃ。

まあまあ、餅つけ!

ところでハルキ?

さっきからお前の姿が見えんが何処にいるんだ?」


◇下!

重いから、さっさと

下を見るし!◇


「舌? お前は私の舌に寄生してるのか!?

いいや、もしかして、

私の下着のパンツの中に!?

お前意外と大胆な奴だな……。

私まで興奮してきたじゃないか。

助け出してやるからちょっと待ってろよ」


「パンツに手突っ込むなしー!!」


「ツッコムな~!

かぁ。

ハルキ、お前なかなか冗談上手くなったな」


「カムっちさ、

さっきからわざとやってない?」


「てへ ぺろ?」

蓮姫は満面のスマイルでしらばっくれた。


「カムっち、そのネタ古りぃ~し!!」

『ボコー!!』

『グホ~!!』

私を派手にぶっ飛ばすなんて

ハルちゅん酷いわ~!」


「カムっち?

キャラ変えてもメェェェ~だし!!」


「なあ?

ところでハルキお前、

いつから私の尻の下にいたんだ?」


「ついさっきだし。

カムっちが一瞬姿を消したかと思ったら

あたしの頭上から落ちて来るんだもん。

びっくりしたし」


「さっき?

私はかなり長い時間お前と会って無かった気がするぞ」


「それはね多分、

………カムっちの気のせいだし~!」


「ハルキ、お前……」


蓮姫は、性格が単純で表裏の無いハルキが

初めてみせた必死で何かを隠そうと否定する硬い笑顔に強い違和感を感じた。


「まあいい。

ところでハルキ。

お前に一緒に着いてきて欲しい場所があるんだが、話を聞いてくれるか?」


「カムっち。

急に ど、どうしたのさ?

柄にもなく真剣な表情して……」


「実はな……」

蓮姫はハルキにさっきまでいた位相空間と

透明で狂暴な化け物の話をした。


「なるほど!

それで、カムっちはその空間から命からがら逃げ出して来たと」


「そうだ。

ハルキ、私はどうしてもあの化け物をなんとかして時の主に会わないといけないんだ。

それにはお前の力も必要らしい。

お前の命は私が絶対に守り抜くから

私と一緒にきてくれないか?」


「カムちゃん、

そんなプロポーズされたら……、

あたし達女同士だけど、

あ、あたし……カムっちに惚れちゃいそう」


「ハルキ……お前。

ありがとう。

お前、私の事をそんなにまで……」

蓮姫はハルキを両手でしっかりと抱きしめた。


「な~んつって

嘘ぴょ~ん!

へっへ~ん!

カムっち本気にしてばっかみたい!

アハハハ、ハハハ、ハハハ!」


「こいつ~!

主人に逆らうな!」


「まあまあカムっち。

さっきの仕返ししただけじゃん。

それと、

あたしはカムっちの召し使いじゃないし!」


しばらく間を開けて、蓮姫が真剣な口調で話出した。

「なあ、ハルキ?

さっきのは冗談として、化け物が強いのは本当なんだ。

手伝って貰えるか?」


「え~。

どうしようかな~」


「お願いだ。

私を助けて欲しい」


「仕方無いな~。

あたしも化け物討伐はある人から頼まれた仕事だし、いいよ!

但し、条件があるよ」


「頼まれた仕事?

それに、条件って言うのは何だ?」


「条件はね、化け物のことが解決した後に

ある人の力を使って

カムっちの記憶の中からあたしのことを全て忘れて貰うこと。

寂しいからって泣いてごねても駄目だよ。

カムっち、約束できる?」


「私は……、

大、大丈夫だが、

ハルキ……、

お前はそれでいいのか?」


「いいよ。

カムっちとの思い出を無くしちゃうのは

残念だけど、仕方無いし」


「ああ、そうか……」


「じゃあカムっち。

さっそくその化け物のいるところにあたしを案内して」


「お、おう」


それから蓮姫とハルキの会話は急に少なくなり、

蓮姫はハルキの態度がどこかよそよそしく感じ、

その空気に息苦しさを感じていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

二人は洞窟の一番奥の場所までやってきた。


「やっと着いたな。

ここの水面から出るとその先に化け物はまだいる筈なんだ」


「カムっち、ちょっと待って!

そこでじっとしてて」


「ああ、わかった。

ところでどうしてだ?」


『ピカ!!』

ハルキは無言で、

蓮姫のその質問には応えなかった。

そして、ハルキは胸元から見覚えのある光る石の着いたペンダントを取り出すと、水面に向けて光を当てた。


「この白い眩しい光、さっきみたのと同じだ!」


「さあ、行くわよ!」


「ハ………ハルキ?」

蓮姫は驚きのあまり、

食い入るようにハルキの顔を見つめたまま

しばらく動くことが出来なかった。


「あなた、いつまでそこでぼ~とつっ立っているつもり?

早く水面の上に上がるわよ!」


「ああ、

あんたは確か……」


「そうよ。

私の記憶、あなたの記憶から

消したつもりだったけど

何故覚えているのかしらね?」

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