味
満月の夜、願いが叶う時がやってきた。
蓮姫がアキアに約束した満月の夜だ。
アキアの家を訪ねた蓮姫は、少年がすでに誰かと約束をしていることを知った。
それは、かつてアキアをいじめていた少年たちだった。
少年たちは過去の過ちを悔い、アキアと彼の母親に謝罪するため、蓮姫の指示でアキアの家を訪れていたのだった。
「アキア? いるか?」
「その声は……!!どうして僕の家がわかったの?僕は今からある人と約束があって、これから出かけなきゃいけないんだ。
だから、ごめん」
「知ってる。その約束って師…、アマザさんのことだろ?」
「え? どうして君たちが知ってるの?」
「俺たちは師…、アマザさんに頼まれてお前とお前の母親を迎えに来たんだ!」
「そうなんだね……」
「アキア!俺達お前に今まで酷いことやったり、言ったりしてきて、本当に悪かった」
少年A「お前が気が済むまで俺を殴れ!」
少年B「いいや!俺を!」
少年C「じゃあ、ついでに俺も……」
少年AB「どうぞどうぞ!」
少年C「え? もしかして お、俺?」
少年AB「そう、オマエ」
少年C「お……おう!って……、えぇぇぇ~!!」
「アハハ。みんな……。気持ちは本当に嬉しいよ。でも、もうそれは過去の事だし、君たちがそうやって優しく接してくれるなら僕は他に何もいらないよ」
「アキア……、今まで散々お前を虐めてきた俺達を、許してくれるのか?」
少年たちは恐る恐る尋ねた。
「うん!」
アキアは彼らの誠意を感じ、笑顔で許した。
「ありがとう。アキア、お前って本当にいい奴だな」
「そんな、よしてよ~みんな~」
そう言いながらも、アキアは今までイジメられてきた奴らの変わりようにただ驚くしかなかった。
「お前の母親は俺たちが連れて行くから、お前は先にアマザさんが待ってる社の祭壇に行ってくれ!」
「う、うん。みんな、ありがとう!」
アキアは母親をみんなに任せ社の祭壇に急いだ。
「よう! 小僧、遅かったな」
「ごめんなさ~い。でもイジメっ子の男の子達がまさか僕とママを迎えに来てくれるなんて本当にびっくりしたよ~!一言教えておいてよね!」
「悪い悪い!でもな、私はそうやってお前に教えてあげたかったんだ。生き物はみんな頭固くてツンデレだけど、根はイイ奴だってな!」
「も~、それ今回痛いほどわかったよ~僕!!」
「だろ~?アハハハ、ハハハ、ハハハ!」
二人は暫くの間、頭を空っぽにして、何かに取りつかれたかのように一生懸命笑っていた。
「お~い、アキア~!!お前の母さん連れて来たぞ~!!」
下僕たちが戻ってきたようだ。
「じゃあお前ら、例の準備はいいか?」
「いつでも大丈夫っス!!」
蓮姫はアキアとその母親を除いた全員に何かを指示していた。
暫くして、蓮姫はアキアの元に戻った。
「小僧、上を見上げるんだ! 始まるぞ……」
アキアは上を見上げた。
「わ~! 綺麗!!ねえママ?観て!
あれ、僕が昔パパと観たお星さまだよ!
ママも観てる?」
「ええ、ちゃんと観ているわよ。綺麗ね~!」
「ママの病気絶対よくなるからね!」
「うん、うん」
アキアの母親は、息子の澄みきった瞳に映る綺麗なお星さまに魅了されていた。
アキアは知っていた。昔父と出かけた海や海面は、自然災害によって蒸発してしまいもう無いことを……。
しかし、今実際に目の前に浮かぶそれらは、アキアの父が言っていた『お星さま』に違いはなかった。
アキアをイジメてた男の子達、そして村人達全員がアキアと母親の為に手を繋ぎあって星座を作り、体を光らせていた。
「あ! ねえ、ママ?観て!あのお星さま、今あっちの方へスッと流れたよ!」
「あら……ホントねぇ」
(どういうことだ?私はあんな仕掛け用意した記憶は無いぞ……)
「おい、小僧?」
「な~に、お姉ちゃん?」
「あれはお前のオヤジだ!」
「ボクの……パパ?」
「ああ、絶対にそうだ!」
流れ星が過ぎ去った後も、アキアはその方向をしばらくずっと見つめていた。
きっと、
寝たままの姿勢でお星さまを見上げる母親の目からは涙が溢れ、その手は側に寄り添う息子アキアの手をしっかりと握っていた。
(あれ?急に周りの時間が止まったぞ?どういう事だ?)
そのとき、蓮姫は不思議な感覚に襲われた。
◇
すると、蓮姫の意識の中に再びマザー様が語りかけてきた。
彼女は、蓮姫に「いのちの蛇口」を回すようと指示した。
「おう、これを回せばいいんだな?」
蓮姫は言われたとおりにその蛇口を勢いよく回した。
すると……、真っ白な眩い光に包まれた後、蓮姫はマザー様やオイロスのいた場所に戻っていた。
蓮姫の体はすでに元に戻っていた。
しかし、最初とは変わった部分もあった。
マザー様の煙突から地下で待っていた村の人々がみな一斉に噴き出してきていた。
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↑【登場人物】
•アキア
•アキアの母
•アマザ(蓮姫)と愉快な下僕達
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