マザーの啓示
地球生物観宇宙(せいめい)誕生の場所へ
翌日、蓮姫とオイロスは合流した。
「お姉ちゃん、この温度でよく平気でいら れるね?」
「私は大人だからな」
「大人だとみんな耐えられるの?」
「まあな。大人は強い。お前みたいなガキにはまだわからんだろうが、大人はみんな
我慢が得意なんだ」
「そっかー!
お姉ちゃん詳しいんだねー!」
「当然だ。
私は、今でこそこのざまだが、
つい最近まで、庶民から相談を受けたり
していたんだぞ。
どうだ~? 凄いって思うだろ~?」
「お姉ちゃん。庶民て何?」
「ハァ、反応は無しか。
まあいい。
庶民って言うのはだな……そう、あれだ。
私のような王族よりも身分が下の人間のことだ。
わかるか?」
「人間って何? 身分って何?」
「人間って言うのは、世界で一番偉くて頭のいい動物だ」
「ふ~ん、いまいちよくわからないや。
じゃあ、身分って何?」
「身分って言うのはな、
え~と、つまり縄張りだ」
「なわばり?」
「ガキにはまだ難しいか。
つまりな、生まれた瞬間に、
自分の生きていく縄張りが決まるんだ」
「どうして?
どうして自分の生きていく縄張りが
生まれた瞬間に決められちゃうの?
そういうのはだれが決めるの?
ねえ、お姉ちゃん?」
「もー、うるさいうるさい!
私もそこまではわからん」
「アハハ。
物知りのお姉ちゃんでも、
わからないことあるんだね」
「コイツ~!
可愛くないガキめ!
余計なお世話じゃい!」
『ポコ!』
「痛った~い!
お姉ちゃん酷いよ~!
原始生物のボクが言うのもアレだけど、
お姉ちゃん、一応……女の人だよね?
女の人って上品な態度や話し方をするんじゃないの?」
「おいコラ~!
その『一応』ってなんだ!一応って!
それに小僧、それは違うぞ!
私は徹底した男女平等主義者なんだ。
何か文句があるか?」
「はいはい。無いです。ごめんなさい」
「それはそうと、早く熱に慣れんと、いつまで経ってもマザーの元に行けんぞ!
集中せい、集中!」
「は~い」
ふて腐れるオイロスが熱さに慣れるのを、
蓮姫はひたすら待つことにした。
「よし、そろそろいいだろう。
オイロス、先に入っていいぞ」
「入って いい って……、言われても」
「あ~もう。
ぐずぐずして~、お前は女か?
ちゃんとキン玉ついとんのか?」
「お姉ちゃん何かさっきと言ってることおかしくな~い?」
「私は常に正しい!」
「お姉ちゃんは僕より年上だよね?
僕はその後を追って入るから、お姉ちゃんが先に入ってよ!」
「何だと!
正気か小僧?
こともあろうに、お前は
何が起こるやもわからん危険な場所に
レディである私を先に通すつもりか?
お前はこんな当たり前の紳士的な振る舞いさえできんのか?」
「だって、レディファーストだから。これ紳士的でしょ?」
「…………え~い、
こいつに言われると何かムカつく!
屁理屈抜かすな!」
「屁理屈じゃないよ~!
それにお姉ちゃん、男女平等主義者なんでしょ?」
「そ、それはだな……」
「それはどうして? お姉ちゃん……」
「気が変わったんだ!」
「そんなのズルいよ~!」
「うっさい、うっさい!
さっさと入れ!」
「わかったよ。わかったから、
お姉ちゃんそんなに激しく押さないでよ~!」
蓮姫とオイロスは高温の熱水の中を流れに逆らいながら
泳ぎ昇っていった。
「おい小僧?」
「ハァ~。お姉ちゃん、今度はなに~?」
言葉づかいが段々荒くなってきていた少年は、
面倒くさそうなオーラを微塵も隠そうとはしなかった。
生意気な奴め!
「お前は人として最低限のマナーも知らんのか?」
「はぁ~? ボクはだいいち人じゃないし、
マナーに反する事なんてしてないじゃん!」
「オナラは一人でいる時にするもんじゃろ~が!!
それに、何を食べたらこんな臭い屁が出せるんだまったく!」
「ボクオナラなんてしてないよ~?
そもそもボクはオナラなんてしない生き物だし!」
「じゃあ、この匂いはどう説明するんだ?」
「え? これはボク達がいつも呼吸してるものだよ?」
「お前オナラを吸って生きてるんか?」
「お姉ちゃんの言うオナラじゃ無いけど、匂いはおんなじだ!」
「小僧、お前が出した訳じゃ無いことに間違いはないんだな?」
「うん。間違いない!」
蓮姫が少年と、そんなとりとめの無い会話をしている間に、
段々と温水の道幅が狭くなってきた。
そして、蓮姫達はすぐに行き止まりに突き当たってしまった。
「周りに他の道は無しか……。
どうやら私達は引き返すしか無いようだな。
くそぉ~! あのマザーとか言うババアめ!
自分を時の主とか言って私にこんな無駄な手間と時間とらせやがって!
ほら、小僧! さっさと引き返すぞ!」
「え~? や~だぁ~!
絶対帰らない~!
マ ザー様が嘘つくはずないよ~!
もう少し辺りを探してみようよ~!
ね~! お姉ちゃ~ん!」
「フン! 意地を張るところがやっぱりガキだ。
私は帰る。後は勝手にしろ!」
「ねぇ~ねぇ~お姉ちゃん?」
蓮姫が少年を置いて一人帰ろうとすると、
少年が服を掴んで引き留めてきた。
「なんだ小僧? まだ何か言いたいことがあるのか?」
「あそこ! 見て!」
蓮姫が少年が指し示す場所を振り向くと、
行き止まりだと思っていた岩石の壁の隙間に一ヶ所だけ、
まるで膨らませた風船に針を刺した時に漏れる空気の様に、
熱水を勢い良く吐き出している小さな穴が空いていた。
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↑【登場人物】
•
•オイロス
•マザー様
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