アマザとの約束
「そのいい方法ってどうするの?」
「俺が一人で先にマザー様の子宮に入って安全かな場所かどうか確かめて戻ってくるんだ」
「ちょっと何よそれ!
一人で行くなんて無茶よ!」
「アマザには大丈夫って確信があるんだろ?
じゃあ問題無いじゃないか」
「そうだけど……、でも、
それならわたしを最初に行かせて!」
「駄目だ!」
「どうしてよ?
わたしが行ってもハムザが行っても危険な事には変わりがないわ!」
「アマザは巫女だろ?
唯一マザー様からの啓示を聞けるアマザが村からいなくなったら
みんな困るじゃないか!」
「ハムザだってマザー様の夢をみたんでしょ?」
「アマザの様にマザー様の啓示を伝えて村を救ってきた実績の無いオレのは本当にただの夢かもしれないんだ。
それに……なんだ、アマザだってその~
一応女の子じゃん。
アマザ一人危険な場所に行かせたりできねぇ~だろ」
「ハムザ…………!?
一応は一言余計よ!
じゃあわたしも、わたしもハムザと一緒に行く!」
「それも駄目だ!
アマザには不思議な力がある。
だからこそ残って欲しいんだ。
アマザには俺を危険から守ってもらえるようにマザー様にお願いして欲しいんだ。
できるか?」
「ハムザって本当にバカ!お人好し!
ハムザはいつも自分勝手なんだから。
あなたはいつも、誰かの為に自分を犠牲にして突っ走って、
損してばっかりじゃないじゃない!」
「ごめんな、アマザ……」
「ハムザの事なんてもうしらない!」
「アマザ……」
「……。
駄目って言っても、あなたの事だから、どうせ聞くつもりないんでしょ?
わかったわ。
そのかわりこれだけはお願い。
必ず無事に戻って来るって約束して?」
「わかった!必ず戻ってくる。 約束する!」
——————————————————————
「マザー様からの啓示じゃ!」
老婆の話を聞き入っていた蓮姫は、その一言で現実に引き戻された。
「急にどうした、老婆?」
「みなを集めてマザー様からの啓示を伝えなきゃならないみたいだね。
旅のお方、すまんがこの昔話の続きは後にさせてもらうよ」
「わかった」
老婆の周りにはすぐに村人全員が集まってきた。
みんな、マザー様の啓示を聞きに来たらしい。
突然……、
老婆は意識を失い、
老婆のいる場所から若い女性の声が聴こえてきた。
「天上世界への道がいま再び開かれました。
皆さんの中で、今日の晩にわたくしの夢を見られた方は、
明日の正午、天上世界に来てください」
マザー様の啓示を聞き終わるとみなはすぐに解散し、
老婆は付き人達の介抱で意識を取り戻したようだった。
その夜、
蓮姫は老婆のはからいで、家に泊めてもらえることになった。
蓮姫は老婆の話の続きは明日教えてもらうことにして、
今日はこのまま寝ることにした。
この世界には文字通り光や色は無い。
ただ、ここが"寝床"だと言うことは判る。
水温は、少年と出会った場所よりも低くはあったが、
蓮姫が生まれた国の暖かい冬の昼間の様に過ごしやすかった。
それに、この村には複数の水の流れが均衡しているポイントがいくつもあり、そのポイントが彼らの寝床を中心とした住まいになっていた。
蓮姫は薬を飲んでから老婆の家にお世話になるまでの間に随分沢山の新しい体験をした。
だから今こうして緊張が解けた瞬間に、
その疲れが強烈な睡魔としてどっと襲いかってきた。
「老婆……、私はもう寝る。話の続きは明日聞かせてくれ……」
「…………」
「おい、老婆?」
老婆の返事は無かった。
蓮姫は、高齢の老婆の体調が少し気になって、
老婆に近づく為に
寝床の水流の均衡点を離れた。
「あれ? これはどういう訳だ?」
水流を全く感じない。
蓮姫は慌てて辺りを見回した。
蓮姫の目と鼻の先には老婆がいたが、老婆は無音でピクリとも動いていない。
蓮姫は光の無いこの環境で、相手の鼓動を聞くことと、相手に触る事で相手の位置を確認する癖がつきはじめていた。
しかし、鼓動の音が聞こえ無かったので老婆に触れ少し揺すってみたが、
老婆はまるで石にでもなったかの様に微動だにしなかった。
◇蓮姫さん、わたしの声が聞こえますか?◇
「誰だ? どうして私の名前を知っている?」
◇わたしはこの時代の時の主マザー。
あなたのことは薬師如来から伺っています◇
「ああ、私をこんな昔に送りつけたあのむかつくジジイか」
◇あなたにお願いがあります◇
「お願いってなんだ?」
◇オイロスと一緒に私の元に来てください◇
「ジジイの条件だからな。
あんたのところに行けば、時代を飛ばしてくれるんだろ?」
◇はい。時代の指定は出来ませんが、時代を飛ばすことは可能ですよ◇
「教えてくれ!
あんたの元にはどうやって行ったらいい?」
◇熱さに少しずつ身体を慣らしてください。
わたしは今あなた達のいるはるか上にいます。
熱水の流れの上流を目指して泳いで行けば、
必ず私にたどり着きます◇
「熱さに慣らすって、どれくらい時間がかかるんだ?」
◇あなたには薬師如来の加護が働きます。
オイロスのペースに合わせてあげてください◇
「行くのは、私一人だけじゃ駄目なのか?」
◇オイロスが必要です。
彼らは元々、わたしのいる上の世界に暮らしていましたが、
巨大隕石の衝突による灼熱の熱波から逃れて
今あなた達がいる地下世界に逃れて来たのです。
ですが、長い月日が経ち、環境は元に戻りました。
だから、彼らには元々暮らしていた上の世界に戻ってきてもらいたいのです。
だからわたしはオイロスに、上の世界が大丈夫だとわかってもらえるお土産を託そうと考えているのです。
だから、オイロスと一緒にお願いできますか?◇
「そういうことか。わかった」
蓮姫はマザーの提案を受ける事にした。
——————————————————————
↑【登場人物】
•ハムザ
•アマザ
•マザー様
•
•オイロス
•おババ様
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