マザー様にもっと近い場所
気がつくと、ハムザは夢から覚めていました。
ハムザが現実に引き戻された場所は寝床ではありませんでした。
それは、ハムザとアマザが向かい合い大事な話をしている場面でした。
「ねえ、ハムザ?
さっきからわたしの話ちゃんと聞いてる?」
「あ、悪い悪い!
それで……何の話だったかな……?」
「はー!?
聞いて無かったの? あなた最低~!」
「す、すまん……」
「ハァ~、も~いいわ。
マザー様が助からないってあなた言ったけど、
わたしは助けられるって話してたことよ」
「え? マザー様を救う方法があるのか?」
「あるわ!
その方法を使ってみんなで地下に逃げるの」
アマザの口調があまりに自信たっぷりだったので、
ハムザはアマザの言葉を信じる事にしました。
「でもさ、どうやってマザー様を動かすんだ?」
「マザー様を動かしたりしないわ。
わたし達はね、地下、つまりマザー様にもっと近い場所に逃げるの」
「地下がマザー様にもっと近い?
それってどういう意味なんだ?」
「マザー様のいる場所は私達が知ってる場所一ヶ所じゃなく、
いろんな場所に偏在してるの」
「偏在ってどういうことだ?」
「つまりね、わたし達 有機体を含んだ温水 が
マザー様なの」
「そんな……、マザー様が俺達を含んだ温水そのものって言われても、
そんなこと俺、納得出来ないよ!」
「確かに理解しがたいわ。
でも、ハムザには信じて欲しいの」
わたし達の生きるこの水の世界の下には岩の集合体の塊があって、
何ヵ所か水が漏れる場所があるわ。
そしてそれは下に枝分かれして流れているの。
岩の集合体より更に一番下はどろどろ灼熱地獄の世界になっていて、上層の岩の集合体の間に流れている水の一部を温めているの。
温水の蒸発から逃げる為に私達が目指す場所はそこよ!」
「マザー様が温水って言うのは認めたとしよう。
でもな、その下の世界にはどうやって行くつもりなんだ?」
「わたし達が普段マザー様の子宮って呼んで祀っているマザー様の中に入るの」
「マザー様の子宮って、俺達が生まれ出た熱水が出てる吹き出し口のことだよな?」
「そうよ」
「無茶苦茶言うなよ!
危険だからって吹き出し口に近づく事さえ禁じられてる
あんな高温、触れるどころか入ったりしたら火傷して死んじゃうぞ!」
「あら、本当にそうかしら?
わたし達にとって一番の驚異は、生きる為に必要な水の世界を蒸発させてしまう恐ろしい灼熱の熱波よね?
そして、その生きる為に必要な水の世界と言っても
耐えられる温度と言う条件がある。
わたし達はみんな暑がりな者や寒がりな者など
みんなバラバラで極端よね?
わたしはその理由が気になって、前から調べていたの。
そしてわかったわ。
マザー様の子宮の一番近くで暮らしてるハムザの分身が
一番暑さに強く、
マザー様から一番遠くで暮らしてるハムザの分身が一番暑さに弱いってね」
「つまり、そのことで何が言いたいんだ?」
「つまりね、わたし達は激しい温度変化にも適応出来るのよ」
「そういうことか!
でもさ、そうは言っても、マザー様の子宮のあの高温は慣れるとかそういうレベルじゃないだろ?」
「確かにね。
だからその為に少しずつ今より高温の場所に移動しながら体を慣らしていくの。
そうしてる内に、わたし達の体の中の熱さに弱い部分が強いものに置き換えられていくわ。本当に少しずつだけどね」
「それはアマザの推測であって実際に確かめた訳じゃないだろ?
それに、そんな危険で面倒なこと、俺はともかく、
マザー様の近くで居心地のいい今の位置から離れたがらない分身達がすると思うか?」
「問題はそこなのよね~。
だからハマザに相談にのって貰いたい訳よ!」
「そういう事なら俺にいい方法がある!」
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↑【登場人物】
•ハムザ
•アマザ
•マザー様
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