【追憶】戦争と貧困のはじまり
カムラが生きた時代よりもずっと昔、
ガンガラ大陸よりもずっと北の
草原に、西方の地からやって来て
自らを高貴な民族と名乗る放牧の民が暮らしていました。
彼らは鉄製の武器と馬の扱いに長けていました。
彼らは先住代々、
強さこそが正義だと教えられ
育てられてきました。
村人同士の揉め事が起これば、
鉄のナイフを使い命懸けの死闘をし
勝った者の言う事に従うという厳しい掟があったのです。
彼らには力こそが絶対でした。
武力に長けた村の権力者の独裁的な
やり方に意見する者、逆らう者はみな
奴隷になるか決闘を強制され、
決闘に負けるとその家族全員皆殺しにされました。
部族の村から命からがら逃げ延びて
新しい国を作る穏健派の村人も中には
いましたが、
村人のほとんどは、間違っていると
思いつつも、リーダーに従っていました。
カムラの生きた時代になると、
彼ら部族は武力によって近隣の民族を皆殺しにし、
一部の戦に才能のある者だけを捕虜に採りながら
カムラ達先住民※の住む土地まで南下し、
そして占領していました。
彼らはまた、免疫の無い風土病への感染を防ぐ為の隔離政策などと
自分たちを正当化する都合のいい口実を並べ、
肌の色の違う
先住民の人々を平気で殺したり、
まるでゴミのように扱ったりしていたのです。
しかし、そんな彼らの中にも
先住民との平和な共生を望む人達だって
たくさんいたのです。
以前のアミュリタの両親の様な、
以前の……。
※封建社会と男女差別に繋がる家父長制の起こり
現代の国際社会において、家父長制を減らしていく流れに世論が動きつつあります。
狩猟採集から農耕へ暮らしが変化した際に人間社会に生まれたとされる家父長制の起源はいったいどこにあるのでしょうか。
家父長制という男性優位な既得権益は「王朝」のシステムと似ています。
人類の長い歴史の中で世界中の権力者が世襲制を行ってきたのは「既得権益」の撤廃が難しかったからです。
ある人物が王になる理由はその親が王だったからであり、それ以外に理由が無くとも、それで世の中が回っているのだから民衆はそこに一切疑問を持ってはならないというバイアスを教育や権力を使って押し付ける論理です。
では、最初の家父長制は具体的にどのような形で生まれたのでしょうか。
農耕以前の狩猟採集民の社会にははっきりとわかる違いがあったようです。
その一つの例がオーストラリアの先住民で、母系を首長とする部族もあったといわれています。
古代狩猟採集部族の組織は多種多様で、
何千部族と分かれていたそうです。
また、その多種多様な部族の数だけ社会制度に違いがあり、たまたま女性がリーダーを務める部族も当然いたはずだというのです。
因みに、ゾウやボノボはメス同士が互いに協力して子育てをすることで家母長制を使っています。協力をするための社会的技能は、
動物の場合はオスよりはむしろメスのほうが優れているのです。
狩猟採集民とボノボは「農耕」をしていない。だとするとつまり、人類は農耕社会のなかに家父長制の原点を生み出したと考えられるかもしれません。
農耕により人口が増えたせいで集約的な社会が形成されて効率的な農耕や灌漑も必要に迫られました。
これには人々の協力は不可欠ですし、それをまとめるリーダーも必要になりました。この指導者こそが現代に受け継がれる支配者階級の起源だと考えられています。
さて、妊娠出産後も育児に多くの時間が必要となる女性に、このリーダー職を務める機会がどれだけあったのでしょうか?
センスなどの向き不向き以前に単純に機会の問題として。
最初はもちろん、女性は男性優位の社会を作って欲しいと思ったわけでも無く、男性も女性蔑視の社会を作って欲しいと思ったわけでもなかったはずです。
ですが、初期の農耕民の時代から現在に至るまで女性側の意見も聞きつつ、公平になるように改めて来なかった不平等な役割分担が、やがて女性の意見が通りづらく男性に有利な社会を作り、生物学とは無関係な「男らしさ」や「女らしさ」を社会規範とする家父長制という社会制度として定着してしまったのです。
つまり、古代の男性達もその点で言えば判断がよくないと思いますが、
史実という過去の失敗から素直に過ちを認め改めようとしない僕達現代の男性も、反省すべき点が山程あるような気がします。
※本作でガンガラ大陸の先住民と語ってしまっていますが、
カムラ達村人はドラビィダ人がモデルであり、
ドラビィダ人はイラン高原に移動し定住していた原白人(アーリア人ではない)とシナチベット族を除く
インド土着民との混血(シュメール系)の人々です。
※サブタイトルにある『戦争……のはじまり』とは、
メソポタミアのウバイド終末期の出来事の様な
世界で最初と言う意味ではなく、
ガンガラ大陸で最初という意味です。
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