思い出作り

6億年前の山登り

「わぁぁぁー!!」

瞳孔で目の白い部分が隠れるほど目を丸くしたハルキ。

その瞳の中にはまるで鏡のように蒼く澄みきったそれを映しだされる。

ハルキは大げさに見える程首を高く上げ、

そして首をゆっくりと時計回りに振って驚きの声をもらした。


「なあハルキ?

空が、雲が、そんなに珍しいか?」


「うん、あたしは実際に見たのは初めてだからさ」


「ハルキ? お前は空も雲も見たこと無かったんだな! 可愛そうな奴だ。

ずっと水中に生きてて、空も雲も知らないなんてな」


「あたしは青い空や、青空に漂う雲も情報としては知ってるよ」


「情報・・・?」


「うん。ただね、こんな綺麗な空を見るのはこれが初めてってだけ。

あたしが生まれた場所はね、水中じゃ無くて

ここみたいにお空の下なんだよ」


「水中じゃないのか?

じゃあハルキはどこで生まれたんだ?」


「実はね、記憶に鍵がかかっててはっきり覚えていないんだ……。

ただね、空はこんなに綺麗じゃなくて灰色で汚い色をしていたよ」


「は!? お前は…本当に?」

「ねえねえかムッち! 今はそんな難しい話やめようよ!

それより、ねえ見て見て!

あの遠くに見える高くて先が尖ってるやつ!

あれ、なんだろ?」

ハルキは蓮姫に見えるようにその遠くを指差した。


「ったく、私の質問をスルーしゃがって。

あ〜、あれか?」


「そう! あの先がギザギザしてるの」


「あれは山脈だ」


「サンミャクって言うんだね。

じゃあ、あの先っちょがぐんと突き出てるのは?」


「あれは……エベレストカムラ・・・と言うんだ!」


「へー!

エロリストカムラって長い名前だね。

それ食えるの?

美味しいの?」


「違がぁぁぁーう!

エベレスト!!

ハルキお前なぁ……。

お前の場合天然か知らんけど、ついでに

しれっとネットスラングぶっこんでくるのやめろや」


「えへへ、めんくり〜ww」


「あたし、あのヤマの1番上に行きたい!」


「1番上って、あの山チョー高えぞ!?」


「いいじゃん! だからこそ行きたい!

ねえ、一緒に行こ?

あの山の1番てっぺんにさぁ!」

キラキラと輝く純真な瞳でハルキにそう促されて、

蓮姫はついに押しに負けてしまった。

「そうだな、ちょっと頑張って登ってみっか!!」


「やったー!!」


先ずは山のすぐ下までの長い距離を歩く二人。

山のすぐ下に着くまでには、紫や緑色の大きな葉っぱを地面から生やした不思議な植物・コケの絨毯・水溜りばかりがどこまでも続く樹海の迷路をひたすら進むしか無かった。


「は〜、また入り口じゃないか!

もうすぐ日が暮れるぞ!」


「じゃあ、今日はここで野宿する?」


「嬉しそうに言うな!

野宿はお前困るだろ!

お前は水中の生き物だろ?

長い時間陸上にいて大丈夫なのか?」


「うんとね〜……、大丈夫みたい」


「そっか。お前のその言い方、なんかムカッとする。

ところでハルキ?

お前が言った目印は全くあてにならないじゃないか!」


「だって……、同じ様な特徴の木が多いんだもん。

あっ! そうだ!!」


ハルキの案で、前・右・左の分かれ道のそれぞれ1番近くにある木に傷をつけてそれを目印にすることで、二人はなんとか樹海を脱出することが出来た。


二人は山に登り始めた。

最初に遭遇したのは紫と緑で埋め尽くされた森だった。

森と言っても、蓮姫が背伸びをすれば森の上を眺められる程の身長の低い葉と茎だけの藻類の植物の森だった。


森を抜けると、次は足場の悪い断崖絶壁の岩山だった。


「ゼーゼー!

ハルキ! 待てって!

私はもー疲れて動けん!

少しでいい。もう一度だけ私をからって登ってくれ」


「カムっち何弱気なこと言ってんのさ?

頂上までもうすぐだよ!

それにカムっち、重いし嫌だよ〜」


「何だと〜!ハルキの分際で!

ハルキの癖に生意気だぞ」


「すんません……」

そう言って蓮姫を背負うハルキ。


「わかればよろしい♪」



そして、ハルキが蓮姫をおんぶした状態で、

ついに二人は、山頂にたどり着いた。

「わぁぁ〜!」

「す、すげぇー!!」

信じられない光景に、ハルキだけでなく蓮姫もまた、驚きの声を隠せなかった。


※ケアリー・ジョーブの「Healer」を聴きながら光景を想像してもらうと嬉しいです。

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