☆TIPS~(P42→)決着

クオリアがネイピアにそう返事をした次の瞬間、光の矢の先端は更に細く鋭くなり、遂に消えた。


「…………」


辺りは暫くの間、しんと静まりかえった。

「ネイピア!

今のうちに私のところに避難して!」


「わかったわ!」

ネイピアはクオリアのすぐ横に寄り添うようにくっついた。

すると……。

「ビュ~ン!」


それは一瞬の出来事だった。


クオリアの背中から生えた無数の光のヤリ達が矛先を変えた。

そして、まるで蚕のまゆの様に密着したクオリアとネイピアを丸ごと包み覆い隠したのだ。



「ピカー!」


「ま、眩しい!!」

耐え難いくらい強烈な閃光にクオリアとネイピアの視界は完全に奪われた。


「クオリア!

あなたも早く耳を塞いで!!

始まるわ」

ネイピアは自身の耳を両手で塞ぎながらクオリアを急かした。


「う、うん。

わかったわ」



「ドッカーン!!!」


光のヤリのシェルターの中まで伝わる

凄まじい爆音と揺れが衝撃の激しさを物語っていた。



「…………」

暫くして、爆音と揺れが収まると、

ネイピアは口を開いた。


「ねえ、クオリア?

私はてっきり、

あなたがさっきの核融合の衝撃に怖い怖いって泣き叫ぶかと思ったけど、

反応が無いわね。

面白く無いわ」




「…………」



「ねえ、クオリア!

あなた聞いてる?」



「ジョボジョボジョボ……」



「今の水の音かしら?」

ネイピアは

クオリアの足もとから聞こえる

耳を澄まさないと聴こえないくらい

微かな水音を見逃さなかった。


「クオリア……。

呆れたわ、あなた……。

怖さのあまり失神してたのね!

ほら、クオリア!

大事なのはこれからよ。

早く目を冷ましなさい!」


「えてえ、えてえ、えてえって、

痛~い!」

クオリアはネイピアに両側の頬っぺたをつねられて目を覚ました。


「ちょっとネイピア!

痛いじゃない!」


「貴方こうでもしないと目を覚まさないでしょ?

それよりも、今は前の敵に意識を向けなさい!」


「わ、わかったわよ」



「じゃあ、先ずは光のヤリのシェルターを解除して」


「わかったわ。

はい、戻ったわよ。これでいい?」



「ありがとう。

じゃあ次は、

もうすぐ始まるから

その光の矢の先端を切って頂戴」


「これでいい?」

クオリアはそう言いながら

見えなくなった一番細い光のヤリの先端辺りを

別の光のヤリで切った。


「いいわ」


「ねえネイピア?

アイツ また水中でビリビリいいだしたよ。

これで本当に大丈夫なの?」



「大丈夫。

クオリア!

私達は全速力で逃げましょう!」



「どれくらい逃げたらいいの?」

クオリアは全速力で飛び続けるネイピアを背中から追いかけながら質問した。


「出来る限り遠くによ。

あれ の大きさが予想できないから」



「とにかく全速力って訳ね。

了解。

あら……?

これ以上ネイピアに追い付けないわ!」



「5次元少女クオリアが現実世界に生み出した大きさのない0次元の想像上の素粒子。

それらの素粒子同士の衝突。

衝突したときの距離はすなわち0。

重力は距離の2乗に反比例するから距離が0の場合、2つの素粒子にかかる重力は無限大になる。

だから、素粒子は衝突しただけでブラックホールになってしまうはずよ」


『ゴゴゴゴゴ……!』


「とうとう、始まったみたいね……」

後ろを振りかえりそう呟くネイピアに合わせ、

クオリアも後ろを振りかえった。


「何て恐ろしい音かしら……」


既に超越因子メタファクター

姿は見えなくなっていた。


超越因子を飲み込んでしまったと思われるその存在の奥の方からは、

荒れ狂う暴風の様な反響音が聞こえてくる。

そしてまた、大変不可解なことに

音質の悪い通話音声と受け取られても仕方がない様な、リアルで不気味なノイズがその奥からは確かに漏れていた。


「ねえ、ネイピア……。

この声って超越因子メタファクター

声かしら?

でも……、

だとしたら会話してる相手は誰なのかしら?」



「あの音は人の声じゃないわ」



「違うの?

どう考えてもあの音は

二人の大人の男女が話をしているようにしか

私には聞こえないけど……」



「あれは、ブラックホールから漏れる電磁波の共振現象よ」



「あ、そっか!

ラジオとかから音が出るのと同じよね。


ところでさ、ネイピア?

聞いてもいい?」



「どうしたの?」



「このブラックホール、後始末どうするつもりなの?」


「放置よ」



「放置って大丈夫なの?」



「外界から隔離された位相空間で戦ったのはその為よ。

それに、いずれ蒸発して消えてなくなるわ」



「消えてなくなるのね。

それなら安心だわ。

ちなみに……ね?

蒸発するまでにはどれくらいかかるのかしら?」



「あなた、どうして今その事を知りたいの?」



「やだな~!私の知的好奇心よ~!

それで、どうなの?」

クオリアはみるからに挙動不審な態度で

ネイピアに答えを催促した。



「ブラックホールのサイズにもよるんだけど、

太陽の10倍の質量を持ったブラックホールの場合だと寿命が10の67乗年よ。宇宙の年齢が10の10乗年程度だからそれよりも長いわ」


「えー!!」



「ちょっと急にどうしたのよクオリア?

あなた今顔色悪いわよ!」


クオリアはショックのあまりまた失神してしまっていた。


そのときクオリアにはとても言えなかった。

宇宙にあるブラックホールのいくつかは自分が興味本位で生み出したものだと言うことを。



「ばふぅ~ん!!」

突然、クオリアはその寄声と共に

両手両足を左右に広げて前方向に跳ね上がった。


「何?

クオリア?

今の下品な悲鳴は何?」



「仕方ないじゃない。

本当にとっさだったんだから。

それに、ネイピア!

あんたが私のお尻にカンチョーしたからでしょ!?」



「カンチョー?

しないわよ!

あなたの汚ならしいケツの穴に

どうして私のこの細くて綺麗な指をいれないといけないのよ!」



「汚ならしいケツで悪かったわねー!!

あま、ちょっ~と堪に障る言い方だけど、

確かにそうよね。

だとすると、今のは何だったのかしら?

まあ、いいわ。

じゃあ私は帰っていい?」



「いいわ。

ありがとう」



「この仮は高く付くわよ。

交換条件の話わかってるわよね?」



「わかったわ。

あなたの人間化の件、私からもアスー様にお願いしてみるわ」



「ありがとう、ネイピア!

じゃあね~ネイピア。

バイバ~イ!」



「さよなら、クオリア!」


ネイピアの元からクオリアは立ち去った。



このとき二人は知らなかった。

クオリアの身体に変化が起きていることに……












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