蓮姫の決断


「カムっちが目を覚ましたっし!」


「私は一体……」


ハルキは蓮姫が水面を出た直後に意識を失い、

今までずっとうなされていたことを説明した。


「ほ~!成る程。つまりハルキは私がまるで女性になったかのようだったって言うんだな?」


「うん、そうっし!」


「何が、うん、そうっし!だー?私はどう見てもれっきとした気品ある淑女だろ!無礼なこと言うな!!」


「ぷぷぷぅ。アハハ、ハハハ!カムっち……が気品ある淑女?熱でもあんじゃない?あ、いけない、カムっち改め気品ある淑女さん?」


ハルキの笑い声が洞窟内に響き渡り、その声が反響して一層大きく聞こえた。


『ゴツン!』『ブギャア!』

痛った~いし!カムっち痛い~」


「お前、おもいっきり私を馬鹿にしているだろ!」


「ごめんごめん。あっ!ところで……」


「ハルキてめえ。しれっと話題すり替えるつもりだな?」


「まあまあ、落ち着くし、カムっち。話題をすり替えたいとかじゃなくて、あたしカムっちがその時ぶつぶつ独り言で喋っていた内容が不思議だったから、忘れないうちにカムっちに伝えとこうと思って!」


「なんだ、そうか。それで、内容って言うのは何だ?」


「え~とね、断片の単語しか覚えてはいないんだけど、『チャトルカルパ』『アカーシャ』とか何回も言ってたよ」



蓮姫はハルキの言葉を聞いて、過去の記憶が蘇るような感覚に襲われた。彼女の心はざわつき、一瞬言葉を失った。



「『四劫』、『空間』か……」


「カムっち、何か思い当たることあるし?」


「…………」


「聞いてる?」


「……」


「ねえ、カムっちってば!!」


「あ!ハルキすまん。ついボーとしていた。悪い悪い」


「ったくもー!!カムっちったら。あたし、怒だからね!」


「すまんすまん。ところでハルキ、話を戻そう。ここが『tirik』だよな?」


「そうだし」


「じゃあ、ハルキ。しばらく世話になったな」


蓮姫の声には決意がこもっていたが、その眼差しには少しばかりの悲しみも滲んでいた。



「え?カムっち……。まさか一人で行っちゃうし?」


「ああ。tirikは未開の場所だろ?いつどんな危険があるかわからんし、私にはを探す目的があるが、ハルキには無いだろ?」


「嫌だー!!あたしもカムっちについていくしー!」


「どうした?この場に及んで!私はお前を危険に巻き込みたくないって言ってるんだ」


「だったら尚更だし!!あたしだってカムっちを一人で行かせられないし。ただでさえ馬鹿でこの時代の土地勘も無い救いようの無い残念な人なのに」


「大丈夫だ。私は確かに馬鹿で土地勘無くて救いようのない残念……ってそれ、おまいう~?私は救いようの無い方向音痴のハルキよりマシだ」


「カムっちひっどいしー!」


「はー、仕方無い。じゃあこうしよう。

私も一度戻る。どっちが早くブラフじじいのところまで戻れるか競争だ!」


「いいねぇ♪勝ったら何かいいことあるの?」


「私が勝ったら、私が一人で行くことを認めてもらう。私が負けたらハルキを一緒に連れて行く。これでいいか?」


「いいよ~!」


「よし、じゃあ、位置について、よ~い、ドン!!」

ハルキはゆっくり走る蓮姫を置いて全速力で走りだした。



ハルキの心臓は興奮で高鳴り、彼女の足は地面を蹴って前へ進んだ。蓮姫はハルキの背中を見送りながら、少しの寂しさと共に見守っていた。



「あれ?カムっち追って来ないし?」


「よし、そろそろ見えなくなったな」

(すまん、ハルキ……。言いだしたら聞かないお前を危険から守るにはこうするしかなかったんだ)


「達者でな、ハルキ」


蓮姫はハルキが視界から見えなくなるのを確認して、一人tirikへと向かって歩き出した。

彼女の足元はしっかりと大地を踏みしめ、心には決意が漲っていた。



蓮姫はブラフトじいさんのところへ戻るハルキを置いて、一人tirikの方へとやって来ていた。

蓮姫が見たtirik、まず彼女の目に飛び込んで来たのは眩しい日の光だった。

(私が今までいたのは……)

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