☆TIPS~(P34→☆←P35)偽憶

「ねえ、あんた?

本当にあの濁流の川に行くつもりなのかい?」


「ああ。

心配するな、ファの母よ。

私が絶対にあんたの娘を助けだしてみせる!

罪もない幼い少女を生け贄にして見殺しにするなんて私は許せないんだ!」


儀式が終わった後も台風による大荒れの天候は治まる気配はない。


竹を割ったような性格の蓮姫が、

華の片親の母や他の村人達の説得に意見を変えるはずはなく、

水龍が住む大荒れの川へ一人真っ直ぐ向かって行った。



「おい! 水龍!

聞こえるか!」


「………」


しかし返事は無かった。


蓮姫には、ただ台風のザーザービュービューと吹き荒れる強い雨と風の音と、天井から地面に無理やり押し付けられるような雨の重さしか感じられない。


「華を返せ!」


「…………」


「黙ってないで姿を現しやがれ!」



「…………」



しかし、蓮姫が何度呼び掛けても、水龍からの返事は無かった。


蓮姫は仕方なく、

服を脱ぎ捨てると、息を止め氾濫する川に潜った。



「汚い川だ。周りが見えん」



川は土で黄色く濁っていて、全く周りが見えなかった。

蓮姫にとって唯一の救いは、水中の中は外の

嵐の影響がほとんど感じられないことだった。


蓮姫は見えない視界の中で、両手両足で辺りをまさぐりながら辺りを散策して回った。


蓮姫が一度息継ぎをするために一度水面から顔を出そうと思った矢先……。


(なんだ……?

この感触は……?)

蓮姫の左足に何かが触れた。


それは、はっきり目で確認しなくても

はっきり理解できる、

人間の手の指先が触れた感触だった。



(下に、だ、誰かいるのか……?)

蓮姫は顔をその指先の方に向け、両手で触り確認した。


その手は、簡単に拾う事が出来た。

蓮姫はその手を持って水面から顔をだした。


水面の外は台風の雨で、視界のほとんどは

遮られていたが、

それでも蓮姫はすぐに理解することができた。

その広いあげた幼い手は肘のところで何者かに噛みきられていた。

そして、噛みきられた場所から流れ出る血から

まだ新しいこともわかった。


蓮姫は手相占い師でも無かったし、

その手に指輪などがあった訳では無かったが、

はっきりとこの手首が華のものだと言うことが理解できた。


「この野郎!!!」


蓮姫は荒れ狂う台風の空に向かってそう叫ぶと、もう一度水面に潜り、底の胴体を探った。


しかし、いくら探しても胴体らしきものは見つからない。


蓮姫がそうやって川の底に注意を向けて探していると、


突然、上を向いた蓮姫の足に何かが触れた感じがした。



(誰だ!

貴様が水龍か!!)


蓮姫が足の方に向きなおそうとした矢先……。


「痛い痛い痛い痛い痛い、

痛い痛い痛い痛い痛い、

痛い痛い痛い痛い痛い、

う、苦し、く、く、

ゴホ、ゴホ、ホ、ホ……」


突然、蓮姫の身体中に激しい電気が流れ、

身体中が痙攣した。


蓮姫は身体中の激しい痛みもさながら、

呼吸が麻痺し、息が出来なかった。

そして更にその肺の中にどんどん川の水が入ってくる。


(私は……死ぬんだな)


蓮姫ははっきりと死を覚悟した。





◇……?◇



◇……え?◇



(誰か私を呼んでるのか?)



◇ねえ? あなた?◇



「はっ!!」


蓮姫はすぐに起き上がった。



「あなた、やっと目が覚めたのね。

まあ、無理は無いわ。

あなた、三日間、ずっとうなされていたんだから……」



「私が、うなされていた?」



「そうよ。

覚えてないかしら?」



「覚えて……ない。

ところで、私は助かったんだな。

あんたが私を助けてくれたのか?」




「そうよ。

あなたがあんな台風の川で溺れていたから。

どうしてあなたはあんなところにいたの?」



「私は生け贄にされた娘を助けに行っていたんだ」



「華って女の子のことよね?」



「そうだ!

どうして知ってる!」


「それは教えられないわ。

でもね、残念だけど、その華って女の子は

電気大肉食ナマズに食べられて死んでしまったわ」



「華が亡くなった……。

そう……か」



「あの娘の死がショックだったのね。

伝え方考えなくてごめんなさい」



「いい、あんたは私の命を救ってくれただけでじゅうぶん感謝している。

ところで、水龍じゃなかったんだな」



「そうね……。

じゃあ、私先を急いでるからそろそろ行くわ。

その半球のテント、あなたにあげるわ。

テントの真ん中に指輪があるでしょ?」


「ああ」


「その指輪についてるツマミを回すとテントの半球のサイズを自由に変えられるから。


外からはテントも中の様子も見えないけど、

中からは白い壁の半球のテントに見えるわ。

じゃあね!」



「ちょっと待て!」



「何?」



「どうしてあんたは私にそんなに親切にしてくれるんだ?」



「それも言えないわ。

ごめんなさい」



「そうか……。

じゃあせめて、

あんたの名前を教えてくれ!」



「名前ね……、

まあ、それならいいわ。


私の名前はネイピア」



「ネイピア……」
















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