第5話 山菜採り
遂にこの森にも時期が来た。
フキノトウの時とは比較にならない完全装備。大きなリュックを背負って、山菜採り用のナイフを腰からぶら下げる。
これがなかなかの優れもので、刀身がスコップのような形になっていて土ごとザクッと行けるんだ。勿論そんなことをする必要があるのはウドなんだけれど。
そして大切なのはこの前掛け型エプロン。
大きなポケットが三つ並んだものに紐を付けただけという実にシンプルな見た目ではあるが、このシンプルさが使い勝手に直結するのだ。
今日も山の神様にお裾分けのお願いをして、いそいそと山に入る。
まずはこの崖を上るところからスタート。
チシマザサが生えているのが見える。これは上から下りながら採るのはほぼ不可能。笹の葉が邪魔して何も見えないからだ。
だが、下から登っていくと葉っぱも無く茎だけが見える状態になるので、タケノコがいくらでも目につく。崖の傾斜から真横に出て上に伸びるからネマガリタケとも呼ばれる。味噌汁に入れると美味しい。
ネマガリタケをどんどん取って前掛けのポケットに入れていく。だんだん前が重くなり、歩くのが難しくなってくる頃に、上手い具合に視界が開けて崖の上に到着。一旦前掛けから収穫したネマガリタケを出してリュックに詰め替える。
登り切ったところは薄暗い半日陰。こういうところはゼンマイの宝庫。
ゼンマイには胞子葉と栄養葉がある。
女ゼンマイと呼ばれる栄養葉は光合成が目的なので採っても良いが、男ゼンマイと呼ばれる胞子葉は再生しないので、採らずに残すのが暗黙の了解となっている。
ゼンマイを採りながら移動していくと、陽の当たる斜面に出た。
こういうところにワラビが出るのだ。
あるある、ウジャウジャ出ている。手で軽くぽきっと折れるあたりから採るのが正解。手で折れない部分は硬いのだ。
そしてこういうところにはもれなくウドが生えている。
ちょうどいい頃に来たらしい。葉が開く寸前くらいのサイズがいいんだ。これを少し土を掘り起こして地下の部分から採ると、刺身にして食べられる。
ウドは捨てるところが無いと言われるほど全部綺麗に食べることができるのに、大きくなってしまうと何に使うこともできない、だから「ウドの大木」なんて呼ばれる。大木と言っても女子中学生くらいのサイズにしかならないけれど。
カタクリの花が咲き乱れる斜面を降りると、今度は沢沿いの湿地帯。
狙った通り、コゴミとミズの姿が見える。
コゴミもゼンマイと一緒で、葉っぱが開く前のクルクル巻いてるものを選ぶ。
ミズはその場で葉っぱを取って茎だけにしておくとかさばらなくていいんだ。あまり採りすぎると、後で下ごしらえが大変だから少しにしておこうか。ああ、でも好きなんだな、ミズの油炒め。やっぱりたくさん採ろう。
お? あそこに見えるのはウルイ?
ウルイも辛子マヨネーズで食べると美味しいんだ、これも採って行こう。
そういえば、なんでウルイって言うんだろうか。これはオオギバボウシが正式名称だった筈だ。ミズはウワバミソウが正しい名前だけれど、水の流れるところに生えるからミズと呼ばれる。ウルイはなんだろう? 帰ったら調べてみよう。
こういうところはギョウジャニンニクも生えそうなものだけれど……この山には無いのかな?
一通りリュックに詰め替えて前掛けが軽くなったところでまた移動。
だいぶ重くなって来たのでそろそろ林道沿いのちょっと入った辺りから歩いて帰ろうか。こういうところにはウコギ科の樹木があるんだよなぁ。
ほら、あった。
タラノキ。コシアブラもある。
これは両方とも新芽の部分をとるので、ちょっと申し訳ない気分になる。
けれども我が家の天ぷらになるのだ、ここは心を鬼にして、というか、自分の誘惑に負けて収穫。
今日は凄い収穫だな。これは帰ってからが大変だ。
さて、帰り道はフキノトウをとったあのルートで帰ろう。きっと今頃フキが出ている。
フキを採りながら帰ればちょうどお腹が減るころだ。
遅めの昼ご飯を食べたら、午後から本日の戦利品の下処理をしなくちゃ。
あー、こんな日はお手伝いさんが遊びに来てくれたりしないかなぁ? くすくす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます