第10話 誕生日
縁側で冷たい緑茶を飲みながら、今日も朝顔で遊んでいるイチモンジセセリさんとヤマトシジミさんを眺める幸せ。
この子たちは、自分の誕生日を知らない。
今日は僕の誕生日なんです。産んでくれた母に感謝する日なんですよ。君たちのお母さんも、君たちを産んでその生涯を終えたんです。
不思議なものですね。
よく「何年も土の中で過ごして、やっと大人になっても1週間しか生きられない」なんて、セミ君の事を語る人を見かける。
でも、ちょっと違うんだな。
人間の価値観で彼らを語るのは、彼らに失礼というもの。
大人で居る時間が短いのではなくて、幼虫の時間が長いんだ。子孫を残す為だけに地上に出て来て、生殖活動をする。
だから大人の期間なんて短くていい。
彼らがエンジョイしているのは、もしかしたら地中の期間かもしれないんだ。
それによく考えると、セミ君は昆虫類の中では断トツの長寿命。
特殊な素数ゼミになってくると、13年や17年なんていう寿命の持ち主もいる。
人間なら声変わりして、髭が生えてる。
あの二人より先輩じゃないですか。
ショウリョウバッタ君が目の前に見事な着地を披露してくれる。
ちょっと小さめだから君はオスですね。君も寿命は約1年。あと数ヶ月の命。
しかし虫たちはそんなつまらない事は考えない。
今を精一杯生きることを大切にしている。
僕は、今を精一杯生きているんだろうか?
母から、父から、愛情を注がれ育んで貰ったこの命を、精一杯生きているだろうか。
都会では気づけなかったこと。ここに来て、たくさんの事を虫や花や小さな生き物たちに教えて貰っている。
そっとショウリョウバッタ君に手を伸ばしてみる。
彼はチキチキチキ……と言いながら飛んで行ってしまった。
入れ替わりにこりす君がやって来た。両手でブルーベリーの実を持って。
僕のすぐ横にちょこんと置いて、また走って行ってしまった。
これは僕への誕生日プレゼントですか?
くすくす……僕が植えたブルーベリーなんですが。
こりす君、僕、乙女座なんですよ。
君たちにはどうでもいい事ですよね。
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