第14話 冬が来る

 寒い。

 寒い寒い寒い寒い!

 僕は皮下脂肪が極端に少ないので寒さが身に染みる。

 去年編んだタートルネックのセーターを着て、綿のたっぷり入った半纏を羽織って、それでもまだ寒い!

 靴下も薄手のものの上にモコモコのものを重ね履きして、更に内側にボアの付いたスリッパを履いているけれど、それでも寒い!


 夏は風通しのいいこの家も、冬は広いというだけで寒く感じる。東京に住んでいた頃は気密性の高いマンションだったからそんなに感じなかったけれど、ここは木造の昔ながらの家だから、隙間風がどこからともなく入り込んで来る。

 トイレも台所も居間も寒いから、実験室に入り浸りになってしまう。この部屋は何でも揃っていて居心地がいいからね。賢者・人体模型君も話し相手になってくれるし。

 昼間は天気が良ければ縁側で日向ぼっこできるけれど、夜はもうひたすらストーブと仲良しさんだ。勿論水を入れたヤカンをかけて、乾燥しないようにして。


 それにしても今夜は静かだ。何かが音を吸い取っているようにさえ感じる。

 あ、もしかして。


 そっとカーテンを開けてみると……やっぱり。

 雪が降っている。

 道理で底冷えするわけだ。


 雪の結晶は六角形。

 水分子H₂O同士が水素結合によって結びつき、1つの酸素のまわりに水素が3つ等価に並ぶことから120度の角度を形成し、綺麗な六角形ができる。それが複雑に成長して、一つ一つ個性の違う形の結晶が生まれる。

 そして雪の結晶はその複雑な形ゆえに音を吸収してしまい、その吸収率は80パーセントとも言われる。

 降っていても積もっていても音を吸収するのだから、雪国の冬の夜は本当に静かだ。


 東京に住んでいた頃は、静かな夜は音楽を聴いたりしていたけれど、今はこの音のない世界を楽しみたい。雪の作り出す無音は、一方で自然の作り出す音楽の一つと言ってもいいだろう。あったかいコーヒーにこそ相応しい音楽だ。

 とは言っても、ストーブにかけたヤカンのシューシューという音はずっと鳴っているのだけれど……くすくす。


 そういえば、去年までいた粉雪さんていう女の子、雪を育てているとか言っていたっけ。どうやって育てているのか聞いても教えて貰えないまま引っ越して行ってしまったけれど。

 また新しい土地で雪を育てているんだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る