冬の日記

第1話 お手玉

 冬は夜が長い。

 朝はさんざん日の出を待たされたというのに、お昼を過ぎると一気に夕方が押し寄せて来る。貴重な昼間も、雲や雪で薄暗い事が多い。

 なんだか太平洋側の青空の広がる冬が懐かしい。

 その代わりと言っては何だけれども、雲がある分だけ放射冷却からは逃れられているのも事実で、東京ほどの昼と夜の気温差は無い。今思えば、東京はなんだか地球上ではないような感じだったから。


 そう言えば、あの時も……。

「東京っていう土地は、月面みたいだと思わない?」

「また葉月君、ややこしいこと考えてるんでしょ」

「ややこしくなんかないよ。ただ無機質で、昼夜の気温差が激しいなって」

「葉月君、ここ、嫌いなんだね」

「え……」

 そうだ、あの時に気づいたんだ。僕はこの土地が好きではないんだって。


 **


 小学生の頃、夏休みは毎年フランスのおばあちゃんのところで過ごした。

 もう本当に何もない田舎だったけれど、花と草と木と青空とたくさんの虫たちがいて、そこで毎日外に出ては野原を駆け回って、木に登ったり、川で魚を捕ったり、牛と遊んだりしていたんだ。

 雨の日はおばあちゃんといっしょにケーキを焼いたり刺繍を教えて貰ったりして、こまごまとした手仕事が僕に向いてることを発見した。

 多分、僕には田舎の生活が合っているんだ。僕の半分を構成しているフランス人があの風景を切望しているんだろうな。


 パッチワークを教えて貰った次の年、お手玉を持ってフランスに行ったっけ。

「こうやってね、日本でも端切れを使っておもちゃを作るんだよ」

 僕はお手玉も得意で……とは言っても、三つまでしか投げられなかったけれど。


 お手玉は縦横比が1:2の布を四枚準備すればいい。4.5㎝×9㎝くらいが投げやすいかな。小さい手なら4㎝×8㎝くらいか。

 それを風車のように合わせて縫う。縫い合わせなかった部分を直角に立てて隣同士を縫い合わせると座布団型のお手玉ができる。

 もちろん筒に縫って上下を縫い縮める俵型の方が簡単だけれど、座布団型は二種類の布を使うと可愛らしくできるんだ。

 一辺を残してぐるっと縫ったら表に返し、秋に集めてきたジュズダマの実を中に詰めて、投げやすい重さにしたら完成。


 ああ、お手玉は小さくてすぐに出来上がってしまう。夜は長いのに。

 ふと顔を上げると人体模型君と目が合った。

「お手玉、練習したらどうだい?」

 それもそうだね。

 っちゃんたちにも教えてあげよう。案外彼女たちの方が上手だったりして。

 …くすくす。

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