第11話 堆肥作り

 うちの庭の隅っこには堆肥たいひ用コンポストがある。この家に引っ越してきて真っ先に庭に設置したものだ。

 これだけ広い庭があるんだ、枯れ葉なんか凄い量になるだろう、そう思って、燃やそうかゴミに出そうか考えた結果が『肥料にする』という選択肢だった。

 今年美しく咲いた花たちが、翌年の花の為に肥料になってまた美しい花を咲かせる。何と素敵なサイクルだろうか。


 冬の気配を感じ始める十一月。学校から帰って来てからではもう暗くなっているので、早起きして庭の枯れ草を毎朝少しずつ取ってはコンポストに入れていく。

 木槿むくげ山茱萸さんしゅゆ紫陽花あじさいなどの落ち葉もあれば、枯れた百日草ジニア秋明菊しゅうめいぎく白蝶草ガウラ紫蘭しらんなんかもある。

 この前、殆どの花の種を外したばかりなので、もう茎と葉っぱしか残っていないようなものがたくさん残っている。なんだか早く抜いてあげないと気の毒になって来る。

 雑草もかなりの量があり、こうして見ると蚊帳吊草かやつりぐさ狗尾草えのころぐさが思いの外多い事に気づく。


 そう言えば、狗尾草ほどみんなが知っていて、それでいて名前を知られていない植物も珍しい。狗尾草と言っても「?」という顔をされることは多いが、「猫じゃらし」というと一発でみんな通じる。

 僕が小さい頃は「エノコログサ」という言葉が言いにくくて、「コショコショグサ」って呼んでいたっけ。蒼さんがよくりっちゃんに狗尾草でコショコショと悪戯をしているけれど……くすくす。


 そうそう、種採りをした時の蔓が、まだその辺に投げてあったはずだ。これも入れないとね。

 このまま入れてもダメなんだな。細かく切るという一手間が大切。物凄い量があったけれど、毎朝少しずつやって行けばそのうちに全部コンポストに収納される筈。


 ふと気づくと、今頃になって琉球朝顔が勢いを盛り返していることに気づく。

 初夏から長期間咲き続ける花はみんなそうだ。真夏の猛暑の時期は花を休める。そしてまた、秋に涼しくなってくると元気に咲き始めるんだ。

 けれども日本の秋は短くて、せっかく盛り返してきたところに一気に冬が来る。


 **


 この時期、チョウたちの羽化は命懸けだ。

 今頃孵化した子たちは冬の到来の頃にさなぎになる。そんな時に、ぽっと暖かい小春日和があると、何か勘違いして羽化してしまう。

 今の時期に羽化してしまった子たちには過酷な運命が待っている。食べ物になる花は無く、寒風が容赦なく吹き付ける。見ている方が息苦しくなるほどその姿は痛々しい。勿論、成虫や幼虫の状態で越冬する種もいるんだろうけれど、僕は一度も見かけたことがない。

 うまい具合に少しタイミングがずれた子は、そのまま蛹で冬を越す。無事に蛹のままでいてくれた子を見かけると、心底ほっとする。そして冬の間、何度も蛹の子たちを確認しに行ってしまう。何度も見たって変わるものではないのだけれど。


 ああ、カマキリの卵がある。これくらいの高さなら、今年の積雪量はは60~80センチといったところかな。またカマクラを作って、中でコーヒーを飲もう。

 そうだ、今年はイグルーを作ってみよう。エスキモーの気分になれるかもしれない。

 せっかくだから、あの子たちも呼ぼうかな。くすくす……。

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