第13話 天体観測

 冬は星空を見るのにもってこいの季節だ。

 良く晴れた日には、それはもう美しい景色を見る事が出来る。

 まばゆいばかりの星たちの奏でる協奏曲に、クラクラと眩暈さえ感じるんだ。


 雪のうっすら積もった庭に出ると、息が白く眼鏡が霞む。

 部屋では綿の入った半纏を着こんでいるけれど、どうも袖がつんつるてんで外に出る時には不向きなようだ。家事や実験にはちょうどいい長さなんだけどなぁ……。


 この庭は部屋の南側を向いているので、やはりそちらが最初に目に入る。

 南にはよく目立つ三つの星が並んでいて、星を探す時の最初の目印になるんだ。これが有名なオリオン座の三つ星。

 この三つ星の右下に光る青っぽい一等星がリゲル、左上に光る赤っぽいのが同じく一等星のベテルギウス。

 そのオリオンのすぐ下に、全天で一番明るい星、実視等級-1.47のおおいぬ座シリウスが堂々たる風格で鎮座している。

 そしてこのシリウスと先程の赤い星ベテルギウスを頂点にした三角形を構成するもう一つの星、こいぬ座の一等星プロキオン。びっくりするほど正三角形に近い。


 少し東に行ってプロキオンの近くにあるのがふたご座。一等星のポルックスと二等星のカストルが仲良く並んでいる。

 地表の方に目を向ければ、しし座の一等星レグルスと、うーん……二等星のデネボラはちょっと見えにくいな。木の陰に入ってるようだ。


 さて、気を取り直してそのまま北を向いてみよう。

 流石に冷えてきたなぁ。

 おおぐま座の北斗七星、こぐま座の北極星が見える。北だから当然か。

 更にもう少し西に目を向けていくと、はくちょう座らしき影が見えるような見えないような、あの木の下にきっとデネブが見える筈。

 少し上に目を向けるとアンドロメダのお母さん、カシオペアが見える。Wの形をしたあの有名な星座。すぐ側にはアンドロメダ座も見えている。


 うう~ブルブル。もうちょっと着込んできたら良かったか。


 さらに西に目をやると地表付近にぺガスス座、秋の四辺形が見える。

 そのすぐ上はさっきのアンドロメダ、そのまた上には生贄になったアンドロメダ姫を救った勇者ペルセウスが寄り添っている。

 そう言えばペルセウス座と、そのペルセウスが戦ったとされるくじら座には、それぞれアルゴル、ミラという変光星がある。変光星というのは等級が安定せずに光り方が変わる星の事だ。ペルセウスとくじら、不思議な縁だな。

 そのミラの少し上にはおうし座の赤い一等星アルデバランが見える。もう少し上を向くとあれはぎょしゃ座のカペラ、あれも一等星だ。


 ああ、首が痛い。星空観察は楽しいけれど、寒いのと首が痛くなるのが難点だな。

 と、まっすぐ南を向いてふと思った。

 あの地表付近にはりゅうこつ座がある。その中には一等星カノープスがあるんだ。

 見えればシリウスに次いで全天で二番目に明るい星なんだけれど、滅多にお目にかかれない。中国では寿老人の星『南極老人星』なんて呼ばれていて、見ると長寿になれるとかなんとか。

 うーん、やっぱり見えない。


 ぶるぶるっ。

 半纏の軽装備ではもう限界。今度はしっかりコートを着込んで見ることにしよう。

 さむさむ……あったかいコーヒー!

 なんだかまた人体模型君に笑われた気がした。

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