第11話 お風呂

 僕が日本人に生まれて良かったと心底思えることの一つに『お風呂』がある。

 はっきり言おう。僕は三度のご飯よりお風呂が好きだ。

 冬場はこの幸せに浸りたくて、一日三回はお風呂に入る。


 最初の一回目は、学校から帰ってすぐ。

 家に帰りついたときは、雪の中を歩いて来たことで身体が芯まで冷え切ってしまっている。その身体を温めて、一日の汚れを綺麗に落とす。


 二回目は星空を眺めるために外に出たり、寒い時にしかできない実験を縁側でやったあと。台所に長時間立った時にもやっぱり入る。

 二回目以降は半身浴。これが温まるんだ。ぬるめのお湯に三十分以上、のんびりと本を読みながら入る。本に夢中になって一時間くらい入ったままなんてこともある。


 三度目は寝る前だ。この時期のお布団はびっくりするくらい冷たくて、冷蔵庫に入れていたんじゃないかと思うほどキンキンに冷えている。

 でも、お風呂に入ってホカホカしているうちにすぐに潜れば、お布団もあっという間にホカホカのぬくぬくになる。


 風呂上がりの蜜柑みかんは最高だ。お風呂で失った水分を一瞬で補給できる。

 銭湯では牛乳(またはコーヒー牛乳)が定番らしいけれども、僕はカルシウムや脂質よりはビタミン群の方が風呂上りには適しているような気がする。


 話が逸れた。戻そう。

 一回目のお風呂には必需品が二つある。『入浴剤』と『おもちゃ』だ。

 おもちゃはその日の気分で変わるけれど、大量のスーパーボール、1mのホース、アヒルさん、プラスチックのビーカーとスポイトなんかが、常に脱衣かご付近にスタンバイしてる。

 ああ、それから忘れてはいけないのが、お風呂クレヨンだ。これが実にいい。石鹸でできているから、タイルに落書きしても水でこすれば落ちるんだ。

 何かがひらめいた時に、そこの壁にメモしておいて、後で書き写しに来ればいい。自分で自分の板書を取っているようなもんだ。


 何をして遊んでいるかと言えば……まあ、ホースを使って1mの位置エネルギーを利用した水鉄砲というかアヒルさん鉄砲だったり、スーパーボールを湯船に浮かべて水流を起こし、水面がどんなふうに移動していくかを観察したり、入浴剤の濃度別にビーカーに入れたお湯を……あ、いや、まあ、そんなことだ。

 それに夢中になって結局冷えてしまったなんてこともあったりなかったり。


 二度目以降は本を持って入るので、静かなもんだ。冬の夜は雪が全ての音を吸い取ってしまうから、益々静かに感じる。秋口はまだ虫の鳴く声がここでも聞こえたけれど、今はどうしているんだろう?

 夏によく遊びに来てくれたナミアゲハさんとキアゲハさん、カマキリ君にイチモンジセセリさん、アブラゼミ君、クサヒバリさんやコオロギ君の事をぼんやりと考えて、あの夏の日々の事を思い出していたら……お湯が冷めてぬるくなってきてしまった!

 ああ、また沸かし直さないと、寒くて上がれないじゃないか。

 こうやって僕の入浴時間はどんどん伸びていく……。

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