第12話 キアゲハさん
卵の頃からずっとこの庭にいたキアゲハさん。
いつも一つの
上皿天秤が大好きで、ナミアゲハさんを誘っては左右のお皿にとまってましたね。
生き物には必ずこの日が来ます。
勿論僕にも。
君との出会いは卵でしたね。
初夏のパセリの苗に黄色くて丸い君を見つけて、嬉しかったなぁ。こんなに小さいのに半透明で綺麗な球形をしていて。
二齢幼虫の時は鳥のフンみたいでしたね。僕の指先に真横を向いて乗っても、指の幅に満たなかった。
三齢幼虫でやっと芋虫らしくなってきて。
四齢幼虫になると黄緑と黒の縞々を見せつけるように歩いてた。
五齢幼虫の頃にはもう堂々たる風格で、芋虫の王様みたいに美しくて。
三齢幼虫くらいから凄まじい食欲で、折角植えたパセリが丸坊主になってしまった。
すぐそばで聞いていると「シャクシャク」って齧る音が聞こえて、君が本当に美味しそうに食べるものだから、僕はついにパセリを一株まるまる君にプレゼントしてしまいましたね。
それでもお腹を空かせて君はもう一株のパセリまで丸坊主にしてしまって、僕はもう笑うしかなかったんだ。
こんなに幸せそうに食べてくれたのだから、パセリもさぞかし喜んだでしょう。
君が
ある朝、蛹が空っぽになっていて、僕はなんだか心の中が空っぽになってしまったような気がしたんだ。
あんなに毎日眺めていたのに、ある日突然いなくなってる。
当たり前の事なのに、置いて行かれたような気分になったんだ。
その時にふと、思い出した。
あの時、彼女もそんな気分だったんだろうか。
そんな事を考えながら人体模型君とコーヒーを飲んでいたら、試験管立ての木枠に黄色い何かが飛んできてとまったんだ。
それが、君だった。
君は僕を覚えていてくれて、何度も何度もこの部屋に遊びに来てくれましたね。
大抵、仲良しのナミアゲハさんと一緒だった。
ナミアゲハさんは今日は一人で食事しています。
君が居なくなったこと、知っているのでしょうか。
君がアリさんたちに運ばれていくのをこうやって見送る事が出来て良かった。
さようなら。
思い出をありがとう。
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