第7話 苺惑星

 縁側に吊るしておいた千日紅。

 風に揺られてカサカサと乾いた音を立てて、僕にその仕上がりを教えてくれる。

 千日紅は僕のようなドライフラワー初心者でも失敗の少ない親切な花だ。なにしろ咲いているときからカサカサな感じ。


 既にドライフラワーとして飾ってある花がある。

 春に咲かせた帝王貝細工と、ラグラス・バニーテイル。

 このラグラスがうさぎのしっぽみたいにフワフワで、千日紅と一緒に飾ったら可愛いだろうなとずっと思っていたんだ。

 だけど悲しい事に、ラグラスは春先だし、千日紅は真夏、出会う事が出来ない。そこで僕はドライフラワーにすることを思い立った。


 千日紅は僕の大好きな黄花千日紅と呼ばれるもので、ストロベリーフィールドという品種の真っ赤なもの。読んで字の如く、苺みたいな色とサイズが可愛らしい。


 この千日紅という花、よくよく見ると花の隙間から黄色い星がたくさん出てる。その小さい星がなんだか妙に可愛らしいんだ。

 苺惑星の周りに衛星が回っているようで……くすくす。

 星の正体は雄蕊おしべやくの部分。カサカサの花のところはほうで、その中に小さい花が一つずつ入っている。その花の中から雄蕊だけがにゅーっと出て来て、星のように見えるんだ。


 そう言えばもう一つドライフラワーにした帝王貝細工も、花に見えるカサカサした部分は苞だった。苞というのは大体がカサカサしてるから……。


 そんなことをぼんやり考えながら、待ちに待った黄花千日紅とラグラスの御対面。

 ……?

 こうしてみると。似たようなのがコロコロコロコロ。あまりバランスがいいとは言えないか。

 でも、可愛いって事で良しとしよう。僕は可愛いものは何でも許せてしまうのだ!


 ふと見ると、庭に何か動く物が見えた。

 なんだろう? こりす君かな?

 と思ったら。

 先日のうさぎさんじゃないですか。

 ああ、また来てくれたんですね。


 でもまだ人間に慣れていないようですね。

 驚かさないようにそーっとそーっと、コーヒーを持って縁側に移動。

 静かに座ってうさぎさんを観察しよう。

 うさぎさん、何を探しているのか、鼻をピクピク。

 うわぁ……尻尾がラグラスだ。ほわほわだ……。可愛いなぁ。


 と思ったら、今度はこりす君。

 こりす君、うさぎさんに全く気付かないようにこちらに走って来た。

 僕の横にそれはそれは自慢気にクヌギの大きなどんぐりを置いて。その様子をじーーーーーっとうさぎさんが見ている事なんか気づかずに。

 こりす君、元気よくぴょんと縁側から飛び降りて、そこでやっとうさぎさんに気づいたらしい。急ブレーキをかけて固まっている。くすくす。どうするのかな?


 二匹の均衡を破ったのは、今回はうさぎさん。

 耳をぴょこんと片方だけ動かすと、こりす君がびっくりして走って行きました。

 うさぎさんはこりす君を目で追うと、今度は僕を見ています。……可愛い。

 僕がゆっくりコーヒーを口元に運んでも、今日は驚かないみたいだね。

 暫く僕は観察されてしまったけれど、満足したのか、うさぎさん帰ってしまいました。


 またおいで。

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