第13話 雨の日

 今日は朝から雨が降っている。

 庭の草花たちは喜んでいるのだろう。


 けれども僕は雨が大嫌い。

 洗濯物が乾かない。お布団が干せない。薄暗い。

 そんな事を言ったら草花たちに叱られてしまうので、これは僕だけの秘密。


 でも悪い事ばかりじゃない。

 壊れた雨どいからはみ出した水が石蕗つわぶきの葉っぱを打つときの音。

 大喜びで合唱をしているカエル君たちの声。

 縁側の傍で井戸端会議を始めるナメクジさんとカタツムリさん。

 葉っぱの裏でじっと雨が上がるのを待っているツマグロヒョウモンさん。

 そして、雨上がりの空にかかる七色の橋。

 葉っぱの端っこにたまった水滴の中にある、逆さまの世界。


 だから、好きじゃないけど、雨も悪くない。


 こんな日の楽しみは『あれ』だ。

 たくさんの端切れがお行儀よく並んだ小さなかごを持ってくる。

 僕はまだあまり上手ではないから、四角いのばかりだけれど。

 色の並びを考えるのも楽しい時間。同系色を集めようか、カラフルに反対色を持ってこようか。


 雨の色ってどんな色だろう?

 ラムネの瓶のような、冷たくて、温かくて、優しくて、透き通った色?

 うううーん、そんな色を作るのは、どんな組み合わせなんだろうか。


 迷ったときはコーヒーだ。

 少し濃いめに淹れて人体模型君の前に座る。


 何色がいいと思います?


「何を作るんだい?」


 そうか、何を作るか決めていないからいけないんだ。

 流石、人体模型君はいつも鋭いところを突いて来ますね。


 **


「何を作るの?」


 あの日、彼女もそう言った。


「それは内緒です。出来上がってからのお楽しみ」

「葉月君は秘密主義だからなぁ」


 言えるわけないじゃないか。

 君の誕生日のプレゼントを作ってるなんて。

 大の男が女の人に手編みのストール。


「葉月君は器用だね。私のお嫁さんになってよ」

「くすくす……僕がお嫁さんなんですか?」

「そう」


 **


 さて、何を作るかな。

 ぐるりと家の中を見渡して……縁側で目が止まる。

 今は涼しい方がいいけれど、冬の縁側は冷たいかな。

 パッチワークパフなら暖かいでしょう。


 あの二人なら、ピンク系とブルー系。

 お揃いで作ったら可愛いだろうな。

 よし、そうしよう、それで行こう。

 その頃にはもう、この縁側には遊びに来なくなるかもしれないけれど。


 それも僕としては喜んであげないといけませんね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る