第6話 プチトマト?

 今日の脳内音楽はカバレフスキーの組曲『道化師』より第2番『ギャロップ』。

 朝起きた瞬間から、十六分音符が頭の中を跳ね回っている。

 ピンクや黄緑、水色、紫、オレンジ、たくさんのオタマジャクシが、ぴょんぴょん。


 こんな日は『あれ』かな。

『あれ』だな。


 洗濯糊と、食塩と、水。

 あ~、折角だから色も付けよう。

 絵の具、絵の具……。どこに行ったかな?


 さて、まずは飽和食塩水。

 水100㏄に対して約36g溶ける筈だから、奮発して40gの大サービス。

 上皿天秤に薬包紙を乗せて。

 こちらには40gの分銅、こちらには食塩。

 そーっとそーっと。


 そこに何かが飛び込んだ。白い食塩の真ん中に綺麗な赤。

「日の丸弁当みたいだな」

 中から顔を出すテントウムシ君。

 0.05gの君は誤差のうちには入らないけれど、そこは見学席ではありませんよ。


 さて、水に食塩を入れて飽和食塩水が出来たところで……。

 テントウムシ君を見ていたら、赤いのが作りたくなってしまった。

 赤い絵の具を食塩水に混ぜて、ここに一気に水と同じ量の洗濯糊を入れますよ。

 割りばしでグルグルグルグルかき混ぜて。

 洗濯糊が固まってきましたね。

 ポリビニルアルコールの水分が、浸透圧でどんどん移動していきますよ。

 おやおや、知らぬ間にギャラリーが増えている。

 いつものカマキリ君にヤモリ君、ヤスデちゃんにカミキリムシちゃん。

 仲良しのナミアゲハさんとキアゲハさんは上皿天秤の左右にお行儀良くとまってる。


 さあ、ここからが面白い、皆さんよく見てください。

 この固まった洗濯糊を取り出して、軽く絞りますよ。

 赤いから梅干しみたいですね。

 これをてのひらで転がしますよ。


 ほら、何だと思いますか?

 ちょっと美味しそうですね。

 なかなか綺麗にできました。

 みなさん、乾くまで触らないでくださいね。


 さて、その間にトマトでも収穫しようかな。

 小さなかごとはさみを持って、麦わら帽子も忘れずに。

 偶にカメムシ君が居るから、気を付けないと一緒に収穫してしまう。こんなに気を付けていてもやっぱり何匹か紛れてる。


 大きなトマトとプチトマト、ピーマン、茄子、ゴーヤ、きゅうり。

 今日の分だけ収穫したら、実験道具を片付けよう。

 ん?

 なんだかさっきの、プチトマトみたいに見えるぞ?

 かごの中のプチトマトにコッソリ混ぜておいてみようか。

 ふふふ、これは楽しい。

 プチトマトにそっくりだ。


 **


 すっかり忘れて午後になった。

 いつものようにこりす君が遊びに来たようですね。

 おやおや、こりす君どうしたんですか?

 そんな情けない顔をして。


 こりす君、恨めしそうに歯型の付いた赤いボールをこちらに差し出しました。


 ごめんごめん、それはプチトマトじゃないんですよ。

 スーパーボール。

 一つだけ混ぜておいたもの、選んでしまいましたね。


 おや?

 にぎやかな声が聞こえてきましたね。

 お客さんがいらしたようです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る