第3話 カモン! ベルティ!

 さて。

 いつもの二人に、自由研究のテーマに「カビ」をお薦めしてしまったけれども。

 アオカビか。

 まあ、どこにでもいる常在菌なので、すぐに手に入るとは思う……けど?

 まずはお手本に一つ作ってみようか。


 シャーレに寒天培地を作って。

 どこに活きのいいアオカビ君が居るかなぁ?


 蓋をした培養シャーレを持ってウロウロすること一時間。漸く見つけたアオカビ君の胞子を静かに綿棒で取って、シャーレに植え付け完了。

 一仕事終えたところで、人体模型君と一緒にコーヒーでも飲みますか。


「先生、青黴チーズって、かびなのに食べられるよね、どうして?」


 着眼点が素晴らしい。


「アオカビ属はペニシリウムと言いましてね、ペニシリンってあるでしょう? あれもアオカビから作ってる、ペニシリウム・クリソゲナムというしゅなんですよ。白カビチーズのカマンベールはペニシリウム・カマンベルティ、青カビチーズのロックフォールやゴルゴンゾーラはペニシリウム・ロックフォルティという種です。名前、そのままでしょう?」

「ほんとだー、ロックバンドみたーい」

「カモン! ベルティ!」

「きゃはははは」

「アオカビはチーズの熟成・発酵を促しておいしくする働きがあるんです。もともとアオカビ自体には毒性が無く、食べても大丈夫なんですよ。もちろん毒性のある種もいることにはいるんですがね。アオカビの生えたパンや餅は、同時にほかの毒性の高いカビも生えていたりするので危険なんですよ」

「チーズ、かび生えてるけど」

「チーズを熟成するときは、アオカビ以外の菌が付かない環境で作るので大丈夫なんです。今はちょうどいい培養気温です。三~四日ほどでコロニーのたねができるでしょう」

「はーい!」


 さて、次に二人が来る頃にはどれくらい育っていると思いますか? と聞いても、人体模型君は答えてはくれないんだな。


 **


「ちょうどいいところに来ましたね。今ちょうど真桑瓜まくわうりを剥いたところです。一緒に食べましょう」


 皮を剥いて一口大に切った真桑瓜、三人には少し足りないようなのでもう二個くらい追加しましょう。フォークも三人分にね。

 あ、忘れちゃいけない、小さなお客さんの為に、皮も準備しないと。


 三人で縁側に座って真桑瓜を食べていると、来ました来ました、コクワガタさん。君はこれが好きだからね。

 コクワガタさんも一緒に並んで真桑瓜の皮に乗っかってお食事中。……かわいい。


「ところで、先日のカビですが、いい感じに育って来ましたよ。青緑にほわほわしてます」

「見たい見たい!」


 シャーレを持って行ってあげると、見たいと言ったくせに二人で「キャ~!」


「良ーく見てください。ほら、胞子は黄緑から青緑にほわほわしてますが、菌糸は殆ど透明なんですよ。見えますか?」

「見えなーい!」

「もうちょっと育ったら、顕微鏡で見てみましょう」


 縁側ではコクワガタさんがお友達を招待してお食事会をしているようです。

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