秋の日記

第1話 秋の空

 空と言えば、僕は秋の空が一番好きだ。

 何しろ高い。とにかく高い。

 巻雲、巻積雲と言った高いところにできる雲が見えると飛び上がりたくなる。


 冬。

 たくさんの水分を持った大陸からの風が、日本を縦断する山脈を越えられずに、そこで水分を落として行くために降る、たくさんの雪。


 春。

 大陸から大量に飛んでくる黄砂で視界が晴れず、なんとなく重たく見える空。


 夏。

 太平洋からの高気圧で、やっぱりなんだか湿っぽい空気。


 そして、満を持しての秋。

 大陸からの乾燥した高気圧に移行する時期。高いところに発生する軽い雲。澄みわたる青い空。さわやかな風。

 春と決定的に違うのは、草が生えて砂埃が上がらない事。だから空気が澄んだままなんだ。


 なんて、理屈をこねると生徒たちは嫌がるけれど、自分の好きなものが何故好きなのかを分析するのは楽しい。


 青い空に緋色のアキアカネ君が飛び回るのも美しい。これは反対色だから。

 真っ赤に熟した雀瓜すずめうり烏瓜からすうりが青空に映えるのも同じ理屈。

 百日草ジニアにとまるキアゲハさんとナミアゲハさんも可愛かったが、青空を行き交うトンボ君たちのスマートな事! チョウが淑女ならトンボは紳士だ。


 僕が空を飛べたらどこに行くんだろう?


 **


「私がここへ来てはダメ? 側にいてはダメ?」


「メコノプシスって知ってる?」

「葉月君てばまた難しい事言う……」

「ヒマラヤの青い芥子けしの事」

「聞いたことある。中央アジアの高山帯にしか咲かないんでしょ」

「それをここで育てたら?」


「葉月君らしい断り方だね」


 僕は心の声を全部呑み込んだ。


 **


 彼岸花が風に揺れている。

 高い高い空には、たくさんの赤い点々が飛び回っている。

 彼らはどこに飛んでいくんだろう。

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