第24話
映画館でのデートの後、木下から連絡してくる回数は格段に増えた。しかし部活では相も変わらず隙あらばいじってくるし、僕の前でもガハハと大口を開けて笑っていたりした。もしかして一吹きでは効き目が甘いんだろうか?それとも先輩からの誘いだから断わりずらかったのか?あぁ見えて気遣いのできる奴だし、いくらSっ気を発揮している相手とは言え先輩と後輩という立場であるかぎり、僕を立てていた可能性は十分に考えられる。
まだまだ薬は残っているんだから、ここはひとつ同じ学年の一番人気のある子に使ってみるなんていうのはどうだろう。
不思議なことに浮いた話を聞かないが、まさにマドンナという言葉が相応しい、そんな女子だ。なんでも医者の娘で、航太の家の近くにある榎原整形外科が彼女の家らしい。前に僕が捻挫した時にお世話になったところで、その時航太が「俺は小さい頃からここでしょっちゅう診てもらってる」と教えてくれた。光がすかさずからかっていたけど、ポーカーフェイスのまま「知らん」としか言わず、榎原さんについては何も分からずじまいだった。それに榎原さんといえばピアノの腕も一級品で、音楽祭ではその伴奏が金賞受賞に一役買っているのではないかと噂されるほどだ。けれど音楽系の部活には入っておらず、意外にも剣道部で汗を流している。そこでもまた彼女の名は知れ渡っていて、ここまで来れば言わずもがな、成績も常にトップクラス。まさに才色兼備。顔のことは好みとか人それぞれあるだろうと思うから具体的にどんな顔とかは言わないけれど、僕は、結構可愛い方だと、思う。
これは行くしかないか?
いや、ちょっと待て。
心の中の冷静な僕が止めた。
いくら惚れ薬があるとは言え、いきなりそんなザ・高嶺の花に飛びついて大丈夫だろうか?後輩と言うぬるま湯でつけた小さな自信ではとても対応できる気がしない。
ボスを倒すには経験値を上げてレベルアップあるのみ。こないだ木下と観た映画でだって、色々な元彼たちとの戦いを経て、ラスボスみたいな元彼を倒したじゃないか。
僕には強い味方がついてる。もう少し、楽しまなくちゃ。
*
僕はいつもより早く学校に来たり休み時間に人のいない場所を探し回って、誰にも気づかれないようにあの惚れ薬を使う機会をうかがっていた。意外にも一人で歩いている女子は多かった。女子はみんなグループがあって、いつも誰かしらと一緒にいるんじゃないかと思っていたから、嬉しい誤算ではあった。後ろから近づいていって、木下の時のように首の辺りに吹きかけることも考えたけれど、知らないうちに、それも背後に男子がいるなんてとてもいい気分ではないはずだし、なにより僕の顔を認識してもらわなければ意味がない。それに僕だって、その、好みじゃない子とはできたらご一緒したくはない。そこでお互いの存在を確認した後、僕の計画を確実に実行に移せるように考え出した方法。
ずばり、すれ違いざま作戦。
すこぶるシンプルなこの作戦は、校内を歩き回るだけでいい。仮に後姿だけしか見えなかったとしても、階段を使って回り込めば問題ない。冬の室内練習で嫌と言うほど階段を上ったり降りたりした経験があるから、どこがどこにつながっているかもバッチリ把握している。
我ながら完璧なプラン。
ガールハントの神様と呼ばれる日も、そう遠くはないかもな。
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